鎖に繋がれた私

犬と猫

鎖に繋がれた私

 私とサキは見えない鎖で繋がっている。

 どこに行くにしても、何をするにしても一緒。とまではいかないけど、ほとんど一緒だ。

 なのに最近、サキを遠くに感じることがある。

 どうして空を見ているのだろうか。どうして食事の手が止まっているのだろうか。

 どうして私の目を見てくれないのだろうか。


「あーちゃん」

 深夜。私が寝ていると思ったのか、サキは私の名を静かに呼んだ。それから言葉を続けず、ベッドの上で細かく動き始めた。

 目を薄く開いて確認すると、サキは起き上がって窓から覗く月をじっと見つめていた。

 その月光は美しい白銀をまとい、サキはさしずめ天使だろうか。

 この光景は絵だと言われたら、私は信じてしまう気がする。

「あーちゃん。私さ、好きな人ができたんだ」

 サキはそう言って頭を撫でてくる。私は咄嗟とっさに目を閉じて、温かい手を頭に感じながら、混乱する脳みそを落ち着かせた。


『好きな人ができた。』


 嬉しいが、やっぱり少し悲しい。

「中学の時からあーちゃんとしか話さなかったし、まさか恋するなんて思わなかったよ。

 相手は優しい人なんだ。でも大学のなかでもちょっと人気あってさ。同じ学科だけど、私の名前覚えてくれてるかな」

 あはは、とサキは自虐気味に笑う。

 私は知ってる。サキは素敵な女の子だ。少し不器用で、コミュニケーションが苦手なだけ。

 にしても、もし付き合い始めたら、この家に来るのだろうか。泊まりとかするのだろうか。

 私が居たら────。

「まず名前を覚えてもらわないといけないから、告白しようと思ってる。どうかな?」

 サキは撫でる腕を止め、その手を強く握った。

 これは相談じゃなくて宣言だな、と私は思う。大胆過ぎて不安しかないが、サキなりに前に進みたいのだろう。それだけ彼を惚れ込んでいるのだろう。

 しかし、相手はサキの名前すら覚えてない可能性があるらしい。許すまじ。

「応援、してくれる?」

 サキの吐息を耳元で感じて、思わず体がビクッと反応した。くすぐったいのに、同時に心地が良い。

「あはは。耳はいつまで経っても苦手なんだね。本当は起きてるんでしょ」

 ばれてたか。私は目を開け、頭上にあるサキの頬を軽くはたいた。

「いたーい。あーちゃん意地悪」

 私はサキの言葉を無視し、月明かりの垂れる窓の側に移動した。

 頻繁に珍しいと言われる瞳をサキへ向けて、応援メッセージを一言だけ口にする。

「ミャァ」

 私はあーちゃん。青い瞳を持った、白い猫。

「ありがと、あーちゃん。頑張るね」

 サキに拾われた、居候だ。

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