第3話

「ごめんね?」


 先輩がそう言って謝るが俺は未だに状況が把握出来なかった。


「せ、先輩?どういうことですか?」


 そう言うとちゃんと説明するからと先輩は俺の体から離れた。


「私ね……」


 次の言葉に俺は絶句した。





「半分人間で、半分犬なんだ」


 何の冗談ですか、先輩酔ってるんですか?なんて言いたかったけれど頭から生えている耳は明らかに本物だったから何も言えなかった。


 最初はつけ耳か何かかなと思ったがよく見たらちゃんと頭から生えている。


「……この姿を見たらいつもみんな逃げてくんだ」


 どんなに好きだと言ってくれた人もどれだけ愛してると言ってくれた人もみんなこの姿を見たら化け物だってもう話してもくれなくなると悲しそうに俯いた。


「ごめんね、山崎くん。いきなりこんな姿見せちゃって」


 先輩は薄らと笑いアウターのフードを頭に被せて俺から背を向けた。


「私のこと……もう好きじゃなくなったでしょ?」


 何も言わない俺に先輩がそう言った。顔は少ししか見えなかったが寂しそうに俺を見る。


 正直頭が追いついていない。


 俺が好きになった人は、半分人間で半分犬だった。


 でも、俺は先輩のこと……


「俺は先輩が人間だったとしても犬だったとしても関係ないです。俺は先輩自身が大好きだから」


 そう言えば目をまん丸とさせて俺を見る先輩。


「嘘でしょ?」


「そんなの関係ないですよ!俺はいつも優しくて可愛い先輩が好きなんです!」


 次の瞬間、先輩の大きな瞳から涙が溢れる。俺は泣きじゃくる先輩を抱き締めた。


 小さくて暖かかった。


「好きだよ、山崎くん!」


「俺も好きです、大好きです」


 *


 いつも通り会社に行くために駅の改札を抜ける。今日も色々な人が行き交う。


「山崎くん」


 電車を待っているといつものように後ろから可愛い声が聞こえる。


 その声に振り向けばニッコリと微笑む子犬が一匹……じゃなかった。


 ニッコリと微笑む先輩が立っていた。


「おはようございます」


「うん、おはよう」


 今日も可愛い先輩に見とれていたら見過ぎだと怒られた。でも怒った先輩も可愛いからいいや。


 あれから俺達は付き合うようになってこうやって毎日一緒に会社にも行くようになった。


 ずっと先輩は俺のことが好きだったらしい。


 でも半分犬だと知ったらきっと嫌われると思って言えなかったと聞いた時はかなりニヤニヤした。


 やっぱり可愛い先輩。


 ぼんやりと先輩を見れば先輩も俺の顔を見ていて

 ドキッとした。


「……本当に私でいいの?」


 そう言って不安そうに俺に尋ねるから俺は先輩が安心するように言う。


「先輩がいいんですよ」


 そう言えば嬉しそうに俺を見る。


「耳が生えた先輩も可愛いから好きですよ」


「バ、バカ!!こんな所でそのこと言わないの!あれは満月の日だけだから!」


「えっ、あれって満月の日だけなんですか?」


 あの姿、結構可愛いから好きなんだけどなぁと残念がれば次の満月まで待ってとまさかのお預けを食らった。


 僕が愛した人は半分人間で半分犬だった。


 でもそんなこと関係ない。愛しているのには変わりないんだから。


 そう。


 愛したのは君だった。ただ、それだけのこと。


 俺は先輩の耳元に口を寄せた。


「一生愛しますから、安心して下さいね」


 返事の代わりに真っ赤な顔をした先輩が俺の肩を叩いた。

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愛したのは君だった 岡田 夢生 @y_okada

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