第2話

 そんなある日、帰ろうと事務所を出れば目の前に先輩を見つけた。


 先輩も俺に気づいたみたいでそのまま近づいてきた。


「山崎くん、ちょうどよかった!今日飲みにいかない?」


 なんと先輩から誘われるなんて夢にも思っていなかった。是非と言ったら嬉しそうにニッコリと微笑んだ。


 飲みに行ったのは近くの居酒屋。


 もっとオシャレなところがいいかなと思ったが先輩がここでいいと言うので居酒屋になった。


 そして居酒屋に着くなりビールを頼む先輩。


「先輩って飲めるんですか?」


「ん?飲めない」


 でも今日は飲みたい気分なのと飲めないのにビールを頼む先輩が可愛い。


 まぁ何しても可愛いんだが。


 きっと酔っ払っても可愛いんだろうなぁと俺は頭の中で妄想を膨らませた。


 あわよくば家まで送っていってそのまま……って俺なんでこんな事考えてるんだ。


 急に恥ずかしくなり、俺はそこで考えることをやめた。


 しかし、妄想はあながち間違ってはいなかった。


 その後、本当にベロンベロンに酔っ払った先輩を家まで送ることになったのだ。


 なんであんな妄想してしまったのか、変に意識してしまって冷静を装うことで必死だった。


「やまざきくーん!」


「ちょっと先輩、飲みすぎですよ」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」


 もう見て分かるぐらい酔っ払って呂律も回っていない。


 支えるように肩を貸せばふわっといい匂いがする。


 うわやばい、俺耐えれるかな。


 空を見上げれば大きな月がまるでこちらを見下げているようだった。確か今日は満月だと朝のニュースで言っていたっけ……?


「ねぇ、山崎くん?」


 俺の肩にもたれ掛かるようにしている先輩が俺の顔を見て言う。


「私ね、山崎くんが私のこと好きだって言ってくれるの凄く嬉しいよ」


 いつも俺が好きですと言っても適当にはぐらかして何も言わないのに急にそんなことを言われてビックリした。


 最初は冗談でも言っているのかと思ったが、先輩の顔を見ると俺をからかっているような感じではなく真剣だった。


「でも、その気持ちには答えられないの」


「……何でですか?」


 そう言って恐る恐る聞いてみると


「私、普通の人間じゃないから」


 そう言って力なく先輩が笑った。


 かと思えばさっきまで普通だった先輩の様子が

 明らかにおかしかった。これをおかしいと言うのか何と言うのか表現に困るような感じだった。


「えっ?先輩?どうしたんですか?」


 先輩の姿を見るといつの間にか頭に小さな犬のような可愛らしい耳が生えていたのだ。

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