愛したのは君だった

岡田 夢生

第1話

 電車が音を立てて走る。


 通勤ラッシュの中、俺は駅へと向かい歩いていた。この時間は色々な人がいる。


 はしゃぐ高校生、スマホを片手に歩くOLや何やら疲れている中年サラリーマン。


 元気な人もいればそうじゃなさそうな人もいて、見ているだけで結構楽しいものだ。


 そんなことを考えていると目の前の踏切がカンカンと鳴り始めた。この踏切を超えれば駅はもうすぐそこだ。


 踏切の遮断機が降りようとしているのを見て俺は足を止めた。


「山崎くん!」


 それと同時に後ろから声をかけられた。


「あ、先輩…」


 振り返れば会社で一番美人で有名な先輩の佐藤さんが立っていた。


 おはようございますと頭を下げればおはようとまるで子犬のように微笑む。


 佐藤さんは俺の二つ先輩で歳も上なはずなのに滲み出る愛くるしさからか俺よりもかなり歳下に見える。


 制服を着れば高校生でもいけるんじゃないかと思うくらいだ。


 そして、いつ見ても美人で可愛い。


 普通に話しているだけでもうっとりしてしまうほど綺麗な顔に見とれていたら、どうしたの?と言って先輩は俺の顔を覗き込んでいた。


 慌てて何もないですと答えて俺は改札を抜けた。その後ろをテケテケとついてくる先輩。


 電車に乗れば会社の最寄り駅まで三駅。およそ十分で着く。


 十分でもこの可愛い横顔を眺められるなんてこんな幸せな朝はない。


「先輩、いつになったら俺と付き合ってくれるんですか?」


「何言ってんの、山崎くん」


 俺の精一杯の告白もサラッと流す先輩を見ていたらあっという間に会社の最寄り駅に着いた。


 駅から会社は徒歩で五分。かなりの駅近だと思う。


「じゃ、またね!」


「はい、また!」


 会社に着けば部署が違う先輩とはお別れ。何故こんなに馬鹿でかい事務所なのだろうといつも思う。


 先輩は俺に手を振って左側へと歩いていく。俺は右手にある入口へ足を進めた。


 少し歩いたところで振り向くと小さな背中がもっと小さく見える。




 もうお分かりの通り、俺は先輩のことが好きだ。


 好きで好きで堪らない。


 そりゃあんなに可愛くて優しくて仕事も出来て完璧に近い彼女なんだから好きになるのも無理はない。


 自分では結構アピールしてるつもりなのだが、肝心の先輩はなかなか振り向いてくれない。


 いつかあの可愛い先輩と付き合える日が来るようにと願う毎日だった。

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