第3話 危機

ーー闇の軍勢だ! 王を守れ!

ーー光の王と闇の王を探せ!!

ーー子どもだけは助けて

ーー他の者は皆殺しだ

ーー光の王は殺せ!


「やめて!!」

 

 気がつくとラクスはベッドの上で叫んでいた。


「夢か」


 汗でシーツまで濡らしていた。額の汗を拭う。


「ラクス、どうしました?」

「ヨハン様。村が闇の軍勢に襲われる夢を見ました。嫌な予感がします」

「大丈夫、そんな予言はありません」


 ヨハンは村の預言者だ。年齢は五十代で、日々未来を観測している。その予言が外れることはない。

 ラクスを落ち着かせるように頭を撫でる。


「なら、いいのですが」

「それより、今日は下界に行きます。ラクスも一緒に来なさい」

「え! 下界ですか。行きます!」


 ラクスは嬉しそうに笑い、ヨハンも微笑む。


「準備をしたら村の入り口に来なさい」

「はい!」


 ラクスは旅用の動きやすい服装にローブを身につけ、森の入り口にやって来た。

 ヨハンも同じような服装だが、ローブの内側には数十もの刃物を隠し、ライフル銃を背負っている。

 また、狐の幻獣であるテンコを従えている。体長は二メートルほどだ。瞳は金色に輝き、尻尾の先だけ黒く、あとは真っ白だ。


「さあ、私のローブに掴まって」

「はい」


 テンコが遠吠えをすると、二人の立つ地面に魔法陣が浮かび上がり、一瞬にして姿が消えてしまう。

 二人が再び姿を現したのは森の奥深くだった。


「今日は私の古い友人のところに行きます」

「え、街には行かないのですか?」

「また今度」


 ラクスが残念そうに眉を寄せると、テンコが顔を舐める。


「うわっ、テンコやめて」

「あまりはしゃがないで。気配は消して行きますよ」

「はい」

 

 テンコを手で制しながら気配をなくす。

 そのまま森の道無き道を進んで行く。野生の獣の気配をあちこちから感じるが、気配を消して入れば襲われることはない。

 しばらくすると小屋が建っている場所に着いた。


「ここですか?」

「そうです」


 ヨハンは扉を五回ノックする。すると向こうからノックが三回返ってくる。


「我らの王にご加護を」


 合言葉を言うと扉は開き、ヨハンと同じぐらいの年の男が現れた。


「よく来たな。その子が例の?」

「ええ、ラクスです。ほら、挨拶をしなさい」


 ヨハンに挨拶を促され、背後に隠れていたラクスは、恐る恐る挨拶をする。


「……こんにちは」

「こんにちは、ラクス」


 男は微笑んでみせる。


「……ヨハン様、この人は?」

「彼はアンベルト。私の古い友人です」

「怖がらなくても、誰も食べたりしないよ」


 アンベルトはそう言うと、ラクスの目の前に手を差し出した。


「今日はよろしく」

「はい」


 アンベルトの手を握ると、ゴツゴツとした太い指がラクスの小さな手を包んだ。

 しかし握手の意味をラクスは分からなかった。


「どういうことですか?」

「今日はここに泊まります」

「え! でもミスラのそばにいなくていいのですか?」

「ええ、大丈夫。王には代わりの従者を遣わせていますから」


 不審に思いながらも、ラクスは頷いた。しかし胸騒ぎを覚え、落ち着かない。


「大丈夫、何も起きやしません。私たちは大事な話があるので、魔法の箱庭で遊んでいなさい」

「わかりました」


 ヨハンは小さな箱を取り出した。箱の中にはお城や牧場、大きな街が見える。

 ラクスが箱庭に触れると一瞬で小さくなり、箱に吸い込まれた。

 

「では、今後について話しましょうか」

「ああ。世界を救うには一つのミスも許されない」


 二人は太陽が沈み、朧月夜になるまで話し合いを続けたのだった。

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