第3話 危機
ーー闇の軍勢だ! 王を守れ!
ーー光の王と闇の王を探せ!!
ーー子どもだけは助けて
ーー他の者は皆殺しだ
ーー光の王は殺せ!
「やめて!!」
気がつくとラクスはベッドの上で叫んでいた。
「夢か」
汗でシーツまで濡らしていた。額の汗を拭う。
「ラクス、どうしました?」
「ヨハン様。村が闇の軍勢に襲われる夢を見ました。嫌な予感がします」
「大丈夫、そんな予言はありません」
ヨハンは村の預言者だ。年齢は五十代で、日々未来を観測している。その予言が外れることはない。
ラクスを落ち着かせるように頭を撫でる。
「なら、いいのですが」
「それより、今日は下界に行きます。ラクスも一緒に来なさい」
「え! 下界ですか。行きます!」
ラクスは嬉しそうに笑い、ヨハンも微笑む。
「準備をしたら村の入り口に来なさい」
「はい!」
☆
ラクスは旅用の動きやすい服装にローブを身につけ、森の入り口にやって来た。
ヨハンも同じような服装だが、ローブの内側には数十もの刃物を隠し、ライフル銃を背負っている。
また、狐の幻獣であるテンコを従えている。体長は二メートルほどだ。瞳は金色に輝き、尻尾の先だけ黒く、あとは真っ白だ。
「さあ、私のローブに掴まって」
「はい」
テンコが遠吠えをすると、二人の立つ地面に魔法陣が浮かび上がり、一瞬にして姿が消えてしまう。
二人が再び姿を現したのは森の奥深くだった。
「今日は私の古い友人のところに行きます」
「え、街には行かないのですか?」
「また今度」
ラクスが残念そうに眉を寄せると、テンコが顔を舐める。
「うわっ、テンコやめて」
「あまりはしゃがないで。気配は消して行きますよ」
「はい」
テンコを手で制しながら気配をなくす。
そのまま森の道無き道を進んで行く。野生の獣の気配をあちこちから感じるが、気配を消して入れば襲われることはない。
しばらくすると小屋が建っている場所に着いた。
「ここですか?」
「そうです」
ヨハンは扉を五回ノックする。すると向こうからノックが三回返ってくる。
「我らの王にご加護を」
合言葉を言うと扉は開き、ヨハンと同じぐらいの年の男が現れた。
「よく来たな。その子が例の?」
「ええ、ラクスです。ほら、挨拶をしなさい」
ヨハンに挨拶を促され、背後に隠れていたラクスは、恐る恐る挨拶をする。
「……こんにちは」
「こんにちは、ラクス」
男は微笑んでみせる。
「……ヨハン様、この人は?」
「彼はアンベルト。私の古い友人です」
「怖がらなくても、誰も食べたりしないよ」
アンベルトはそう言うと、ラクスの目の前に手を差し出した。
「今日はよろしく」
「はい」
アンベルトの手を握ると、ゴツゴツとした太い指がラクスの小さな手を包んだ。
しかし握手の意味をラクスは分からなかった。
「どういうことですか?」
「今日はここに泊まります」
「え! でもミスラのそばにいなくていいのですか?」
「ええ、大丈夫。王には代わりの従者を遣わせていますから」
不審に思いながらも、ラクスは頷いた。しかし胸騒ぎを覚え、落ち着かない。
「大丈夫、何も起きやしません。私たちは大事な話があるので、魔法の箱庭で遊んでいなさい」
「わかりました」
ヨハンは小さな箱を取り出した。箱の中にはお城や牧場、大きな街が見える。
ラクスが箱庭に触れると一瞬で小さくなり、箱に吸い込まれた。
「では、今後について話しましょうか」
「ああ。世界を救うには一つのミスも許されない」
二人は太陽が沈み、朧月夜になるまで話し合いを続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます