第2話 王

 ラクスは森の妖精と遊んでいた。光の力を使って闇に犯された草花を元気にしている。


「楽しいね、妖精さん」

「楽しいね。楽しいね」


 妖精は、ラクスが生き返らせた草花の香りを楽しんでいる。

 そこに闇の王であるアベンがやってきた。


「ラクス、光の王が呼んでいる」

「えー、もっと遊んでいたかったのに」

「お前は従者だろう。王に逆らうのか」

「わたしもアベンもミスラも同じ一二歳でしょう」


 無駄口をたたきながらもラクスはアベンの後を追う。

 アベンが通ると周りの草花は老いて枯れていくが、ラクスが元に戻していきながら歩く。テントに入ると、光の王であるミスラは正装のドレスに身を包んでいた。


「ミスラ、今日はなんの儀式?」

「光と闇のバランスが崩れているから、それを戻します」

「均衡の儀式ね」

「闇の力が強まっているの。ラクスの力も貸してください」

「オッケー」


 ミスラは杖で地面に大きな魔法陣を描いていき、ラクスは呪文を唱え続ける。アベンはただ眺めていた。

 魔法陣が光を帯びて輝き、ミスラは魔法陣の中心に水晶玉を置いた。

 すると水晶玉に世界が映しだされ、光の輝きと闇の深淵が見てとれる。


「アランス地方の闇が濃いね」

「そうね。ここの半分を光で浄化しましょうか」


 ミスラは水晶玉に触れ、光の紋章を掲げる。

 ラクスが最後の呪文を唱えた。


「光の紋章よ。我の力を生贄にこの深淵を清め給え」


 魔法陣がより強い光を放ち、水晶玉に光が集中する。

 水晶玉に映し出されている闇が浄化されていく。アベンは少し苦しそうに顔を歪める。


「はい、終わりです」


 ミスラが水晶玉から手を離すと、魔法陣と水晶玉の光は消えた。

 ラクスはアベンの方を向いてい言う。


「アベンは大丈夫?」

「問題ない」


 そう素っ気なく答えるアベンは、いつものすまし顔だった。青い瞳はなんでも引きつけて飲み込んでしまいそうなほど深い色。


「俺は社に戻る」

「ゆっくり休んでください」


 光の王と闇の王はそれぞれの社をもっている。互いの社には入ることはできない。

 また、触れ合うこともできない。光と闇が交わることは禁止されているからだ。

 ここは世界を構成している光の王と闇の王を守る『始まりの村』。世界の監視役も担っている。

 しかし村の所在は地図にはない。下界には存在を知られていはいるが、どこに存在しているかは極秘となっている。

 結界師によって、幾重にも防御壁と遮断壁、目くらましの術がかけられ、下界からはコンタクトできないようになっている。

 この村が滅びたことは一度もない。けれど、世界を脅かす事態が迫っていた。

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