第22話 思わぬ同士?

「おかえりー、どうだった?」

 村へ着いてあてがわれた離れへ戻ると、イサさんが山積みになった例のパイといっしょに待ってた。

「ちょっと冷めちゃったけど、食べる?」

 イサさんがお皿を差し出す。

 お弁当は持ってってたけど、ずっと山を歩いていい加減お腹が空いてたから、生贄騎士と二人、遠慮なく手を出した。

「これ、あたしが作ったのよー」

「え、そうなんですか? あのおばさんじゃなくて?」

 昨日のと味が変わらないから、てっきりあのおばさんが作ったんだと思った。

「まぁ、教わりながら作ったから。そりゃ味は一緒になるわよ」

「なるほど」

 言いながら二つ目に手を出す。騎士の方はもう三つ目だ。

 ――少しは遠慮しろ。

 魔法陣を書き換えたり大活躍の僕と違って、一緒に歩いてただけなのに。

 でもお皿の上は山盛りで、お腹いっぱい食べても余りそうだから、寛大な僕は許すことにした。

「で、そっちはどうだったの?」

「今日周ったところは、特に何もなかったですね」

 昨日と同じく三つ――遠いから時間がかかった――周ったけど、どれも手を加えられた様子はなかった。

「じゃぁ、細工されたのは昨日の三つだけ?」

「たぶん。でもわかりませんから、何日かかけて全部周ります」

 念には念を入れろというのが、父さんの口癖だった。例え無駄になっても、やらずに後悔するよりましだ、と。

 実際そうだと思う。特に魔法なんて、余ったら次で使えば済む。けど準備不足は最悪だ。だからどれだけ念を入れても、困ることなんてない。

「まぁ、いろいろおかしいものね」

「ええ。イサさんの方は、何かわかりましたか?」

「もっちろん」

 イサさんが胸を張った。

 ――もっと張ってください。

 イサさん、樽体型じゃないけど、けっこう〝ある〟。だからそれが胸を張ると、こう、なかなかいい感じだ。

 ふと見ると、隣の生贄騎士もおんなじとこを見てた。同士だ。

「ヨルダ――あ、あのいつもご飯持ってきてくれる彼女なんだけど、いろいろ教えてくれたわーって、聞いてる?」

 イサさんの声に刺が混ざって、慌てて二人で答える。

「もちろんです」

「聞いてますってば」

「ホントかなぁ……? まぁいいや」

 僕らに向かった疑いは、幸いそれ以上追及されなかった。きっと、話したいことがあるからだろう。

 女というのは話すために生きてる、父さんはよくそう言ってたけど、その通りだと思う。

 イサさんが続けた。

「ほら、魔導師が来たって話、あったでしょ?」

「ええ」

 こればっかりは、忘れようがない。

「それがね、彼が麦を持ってきたって」

「あー」

 なんというか、予想通りだ。見事に裏が取れてしまった格好だ。

「なんか余ったから輸出するんだって麦持って来て、結構な量を滞在費ってこの村に分けてくれたって」

 麦が余ったのは事実だし輸出するのも構わないけど、代金をお城に入れろ、としか。見事なくらいの着服だ。そのお金がちゃんとお城に行ってれば、姫様がドレスを新調できたし、僕のお城でのおやつも増えただろうに。許せない。

「で、村にしばらく居て、祠周ってたんだとか」

「その時に、魔法陣を書き換えたんでしょうね……」

 師匠に確認したけど、あれはひと月ほどで書き換わるらしい。だから直前に来た魔導師が、やったんだろう。

 もしかするとその人は関係なくて、全く違う人が独自にやった可能性もゼロじゃないけど……限りなく低かった。

「つまり、それがスパイか?」

「でしょうね。敵国に所属してるか、雇われた魔導師だと思います」

 領主にいろいろ吹き込んで惑わせた助祭長。その助祭長を焚きつけた、異国から来た誰か。助祭長と結託してた、会計係。その会計係と一緒に消えた麦。そして麦が取れないはずの、麦が余っている村。

 なんというかわかりやすすぎて、もう少し難しくしたらどうだと言いたくなる。

 狙いはたぶん、国境越え。なら直接の相手は、山向こうのドイエマ国だろう。そこにどのくらいの国が加担してるかは……とりあえず考えないでおく。

「何とかしないと、攻め込まれるな。それこそ急いで城に知らせないと」

「それはやります」

 さすがにこの期に及んで、早馬はないだろう。ここからだとお城に話が行くまでに、どんなに頑張っても三日かかる。

 その点、共振させた水晶玉なら一瞬だ。師匠が気づいてくれるかが心配だけど、昨日のももう返信来たから、さすがに大丈夫なはずだ。あの偏屈師匠でも、今回起きてることが重大なのは、さすがにわかってるらしい。

 ふだんからそのくらい、物わかりがよければいいのに。

「ともかく、知らせますね。そこどいてくれますか? 陣広げるので」

「あ、すまん」

 部屋の真ん中を空けてもらって、昨日と同じように、僕は用意を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る