第20話 果報は寝て待て?

「あ、そこ離れてください」

 言って生贄騎士を下がらせる。

 見回りが終わって、例の離れに戻って夕食も食べ終わって、僕は〝魔導師に使える通信〟の準備をしてた。

 ふつうなら床に魔法陣を描くのだけど、今回は師匠の技を利用して、石を六つほど配置しただけだ。

 ――なんで師匠、今まで教えてくれなかったんだろう。

 陣を描いたら、毎回すごい時間がかかる。予め描いたタペストリーかなんかを用意しておいて、使うときに広げる方法もあるけど、持ち歩くにはかさばるのが難点だ。

 その点この石に組み込んでおいて配置するやりかただと、かさばらなくてすごくいい。

 本当にこの辺境に来てよかった。じゃなきゃ師匠、ぜったいに教えてくれなかったに違いない。だから僕はひそかに、師匠が死ぬまでくっついてようと心に誓う。そうすれば師匠が研究したものは、僕のものになるはずだ。この魅力はとてもとても捨てがたかった。

「じゃ、始めますね」

 配置した石の中央に、特殊な加工をした水晶玉を置いて、それに向かって話しだす。

「師匠、これを聞きましたら、お城へ内容を知らせてください」

 前置いて、僕は続けた。

「実は、調べた国境の祠の陣が、書き換えられてまして――」

 今日は結局三つ回って、そのどれもが書き換えられてるのを確認した。で、それで分かった書き換えのやり方や、推測だけど書き変えた時期、対処法等々を水晶玉に言う。

「以上です。ご指示ありましたら、お願いします」

 言って僕は、話すのを止めた。最後に短い終了の呪文を唱えて、終わりにする。これで師匠の家に置いてきた、共振させてある水晶玉に、今の話が記録されてるはずだ。

「そのうち、返信が来ると思います」

「こんなものがあるのか」

 感心したのは、生贄騎士だ。

 まぁ彼じゃ遠くへ急いで伝える方法は、伝書鳥か早馬しか知らないだろうから、驚くのも無理はない。魔導師のすごさを思い知れ。

 だからついでに畳みかけて、すごさをさらに思い知ってもらうことにした。

「魔力がないと、この方法は使えませんから。だから戦地から送ろうとしても、前線と後方両方に魔導師がいないとダメですよ」

 生贄騎士が考えてそうなことを、先回りして言う。

「そうなのか……」

 どうやら図星だったらしい。彼の肩が落ちた。

 ――そのくらい、お見通しだ。

 古今東西どれだけの魔導師が、同じ質問をされたか。だから模範解答だってちゃんと用意されてるのを、知らないんだろう。

「ともかく、これで話は行ったのよね?」

「師匠が気づけば、ですけどね」

「そこが心配なのよねぇ」

 これに関しては、イサさんの言うとおりだ。どれだけ早く伝わっても、相手が見てくれないことにはしょうがない。ただこれは手紙でも同じことだから、もうどうしようもないところだ。問題は師匠そのものなんだから。師匠の性格が取り換えられればいいのに。

「まぁさすがに今回はコトがコトなので、見てくれるとは思うんですけど」

 この通信手段用意してくれたの、師匠だし。自分が行きたくなかっただけだとは思うけど。

「待つしかないわねー」

 それがイサさんの結論だった。おばさんという種族にしては、すごく妥当でありふれた結論だ。こんな答えが出せるなんて、何か悪いものでも食べたんだろうか?

 悩む僕を尻目に、イサさんはぽふっと音を立てて、ベッドに転がった。

「疲れた。寝る」

「はいはい」

 イサさんがこう言いだしたら、絶対に止めちゃいけない。そんなことをしたらたちまち不機嫌になって、降参するまでいろいろ言われるのは確認済みだ。

「朝ごはん来たら、起こしますよ」

「嘘ばっかり、いつもあたしに起こされてるくせに……」

 最後は半分欠伸になって、そのままイサさんは寝込んでしまった。

「我らも寝るか」

「そですね」

 これ以上起きてたって仕方ないし、僕も散々歩き回って疲れてる。

 念のためにドアと窓に、侵入が分かるように細工をして、それから僕らも眠りに就いた。

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