第11話 男たちの夜

「いやぁ、魔導師殿がこの城にご滞在とは」

「本当に心強いですな」

 そんな話し声を聞きながら、僕は自分がなんでここにいるのか、まだ納得いかなかった。

 先日に引き続き、晩餐の席だ。ただ今回は公的なものじゃなくて、もっと私的にしつらえられたものだ。

 列席してるのは全て男性。むさ苦しいことこの上ない。せめてイサさんでもいてくれたほうが、まだ目にはいいと思う。おばさんとはいえ、あの人はいちおう女性だし。案外ドレス似合うし。

 厨房おばさんに聞いたら、こういう私的な男所帯の晩餐は、意外にあるって話だった。

 でも僕は嬉しくない。姫さまもいないし。

 あと、なんか視線が痛い。特に少し離れたあたり、恰好からしてここの騎士たちだろうけど、その辺からの視線がすごく刺さる。

「スタニフ殿は、どちらで魔法を学ばれたので?」

 誰だったろう? 自己紹介嵐のときの人が訊いてきた。

「僕ですか? セルベル魔法学院です」

「ほう、あの名門の……」

 この人の言ってることは、そんなに的外れじゃない。セルベル魔法学院って言ったら、数ある魔法学院の中でも特に名を知られてる。「魔法を学ぶならセルベルかスコグルンド、さもなければノルビへ行け」っていうくらいだ。

 名門かどうかは知らないけど。

 僕がそこへ行ったのは、単に住んでた首都の近くにあって、他国の学院に行くより楽だったからだ。

「ではそこで学ばれて、今はザヴィーレイ師のお弟子に? 学院に残らなかったのですな」

「ええ」

 あの学院の出身者は、進路はだいたい二つだ。ひとつはどこかにスカウトされて、仕官なりなんなりする。もうひとつは学院に残って、研究や指導に回る。

 ただ僕はもっと新しい理論をやりたかったから、どっちの道も取らなかった。

「これからはどうされるので?」

「師匠の研究を手伝うつもりですが……?」

 今までだってそうだったし、今さら変える気もないし。

「城に仕官は?」

「今はあんまり……」

 そんなことしたら、師匠の研究を盗めなくなる。手伝う以上、研究を見るのは当たり前の話だ。そして見ているうちに覚えるのも、仕方のない話だ。いろんな職人がそうやって盗みながら仕事を覚えてくのと、同じ話だ。

 でも城へ行ってしまったら、それができなくなる。せめて師匠が生きてるうちは、手伝うと称して知識を盗みたい。それが僕の遠大な計画だった。

「私どもとしては、ぜひこの城に来て頂きたいのですがねぇ。魔導師殿がいてくだされば、いろいろとご相談もできましょうし」

 別の誰か――会計役に雰囲気が似てて、でも禿げてる――が、また話しかけてきた。

「先日の保冷箱のような、便利な魔法の道具というものも、導入したいですしな」 

「はぁ……」

 微妙だ。微妙すぎる。だってあれはイサさんの発案で、僕の発明じゃない。これでうっかり仕官なんかして、そのことがバレたら、僕の魔導師という立場が地に落ちる。それだけは何とかして避けないと、姫さまに嫌われてしまうかもしれない。

「まぁまぁ、無理強いしてもはじまらないのでは?」

 少し遠くにいた神職から、助け船が入る。

「インゲンソン殿、彼もそのうち気が変わるかもしれませんし、もしかしたら状況が変わるかもしれませんよ」

「確かにそうですな。スタニフ殿、失礼した」

 やっと解放される。でも相変わらずむさ苦しくて、食事がちっともおいしくない。

 何とかして口実を作って早く抜け出そう。そんなことを考えながら、僕は残りの料理を口に運んだ。

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