悪役令嬢モドキ、VRMMORPGで悪役令嬢になる

totto

第1話

 皆様、ご機嫌よう。

 わたしく有栖坂ありすざか沙理唖さりあと申します。

 とある学園で高校2年生をしておりますの。


 そして、悪役令嬢のような・・・・存在ですわ。

 わたくし自身、中学校で悪役令嬢と言われたのを切っ掛けに自分で調べた・・・結果、この現代社会において、悪役令嬢と言えば、やたらとプライドが高かったり、物語の主役であるヒロインをイジメたり、権力を使い好き勝手するお金持ちのライバルキャラと大体相場が決まっているみたいですわね。


 はぁ?

 どんなご都合主義でございましょうか。

 

 と思わなくもないですが、物語の都合上そうであった方が良いのだと理解しております。

 もちろん、わたくしはそのような事・・・・・・はしておりませんが、言動が似ているようでクラスメイト達から茶化し気味に言われたりしておりますが。


 わたくし達がかよう学校は、いわゆる名門と呼ばれる所で財閥や著名人を親に持ったご子息ご息女達も多く在籍しております。

 “上に立つ者は、下の者達を理解せねばならない。”

 という育成方針のもと、奨学金や特待生度を活用し一般市民も多く通っておりますわ。



「ご機嫌よう、有栖坂さま」


「あら、ご機嫌よう」



 学校ではそこそこ・・・・有名なわたくしは、出会えば誰もが挨拶をしてきます。

 この様に優雅な挨拶をしていただけるのは、大体が上に立つ者として教育を受けている方々。

 そして、



「そこの貴女、その様に校舎内を走ってはいけません。危ないですし、品が無くてよ」


「有栖坂さま、ごめんなさーい! でも、次の授業に遅れそうなのぉぉぉぉぉ、許して―――――!」


「まったく、仕方のない人ですわね……。コラ、そこの貴方達。彼女のスカートを見るのはおよしなさい」



 本人は気が付いていないのか、閃くスカートの裾をチラ見する男子生徒たちの姿をたしなめます。

 彼女は生徒となったのだから、庶民だとしても、もう少し品を身に着けて貰いたいものですわ。


 祖父から『上に立つ者は、まずは態度で示しをつけねばならぬ』と言いつけられており、わたくしを溺愛している祖父は立派な淑女になるようわたくしの言動を良くチェックしております。

 それ故に、悪役令嬢に似た言動になってしまい誤解を受けることも暫しあり、それも致し方のないこと…………だと今では、自身に言い聞かせておりますわ。

 幸いにも、親しい方々にはご理解いただけているので助かっておりますが、もう少し自由に過ごしたいというのが本音。



 しかしついに、わたくしはその方法を手に入りますの!


 その名も『Second Role Ability』通称SRA。


 巷で話題の初となるVRのMMORPGゲーム。

 大規模多人数同時参加型オンラインで、ロールプレイゲームが楽しめる。

 そして! 最新技術により、そのゲームの世界に自分が入り込んだ様に楽しめる。そんな素敵なゲームでございますわ。


 なぜご令嬢であるわたくしが、これに興奮しているのか。

 このゲームの世界でなら自由に過ごせるはず! そう、あのお爺様でも流石にゲームの中まで監視が届かない!!


 まるでゲームの世界に入ったかのように遊べるのだからワクワクしてしまいますわね!

 そしてなにより、このゲームの売りであり、タイトルになっているセカンドロール・・・・・・・システム。

 ヘルメットのような特殊機械を使い遊ぶこのゲーム。事前に脳波を測定し、チュートリアルでいくつかの質問に答えることで役職ロールが割り振られます。


 この役職ロールは魔法使いや剣士などの職業とは別にSRA内でのプレイヤーに絶対に割り振られるもので、その役職ロールを無視するもよし、役職ロールに忠実な行動をするも良し。

 しかし、その役職ロール通りの行動をとると特典が貰えてお得なので、余程のことがない限りはこの役職ロールの行動をすることになるでしょう。

 とても興味深いですわ!

 

 とまぁ、この話題のゲーム。

 もちろんのこと、購入希望者は大多数おり、予約も当日販売も長蛇の列。買い損ねた涙は数え切れないほど。

 しかし、わたくしはご令嬢。ちょっと頼めば簡単に手に入ります。

 え? 権力は使わないんじゃなかったのか? オホホホホ、時と場合にもよりますわ!




 帰宅したわたくしは、早速自室に置いてあった箱を開けます。

 バスケットボールでも入っていそうな段ボールから出てきたのは、フルフェイスのヘルメットのような機械。

 あら、意外と軽いのですわね?


 説明書を読み、付属のLANケーブルをルーターに繋いでコンセントを差し込んだりと作業を進めます。

 このヘルメットの様な機械『シンクロナイザー』は記憶媒体も内蔵しているようで、ソフトなどは要らないようですわね。


 シンクロナイザーを被り、ベッドで横になり右耳辺りにあるスイッチを押し込む。



「この恥ずかしいセリフを毎回言わなければならないのですの? ……‟シンクロ、オン!”」



 目をつぶり起動ワードを発すると、気が付けば知らない場所に立っていましたわ。

 確かここがこのシンクロナイザーの初期画面で、ここからゲームアプリを選択して起動させるのでしたわね。


 目線を動かすとSRAの文字が付いたアイコンが宙に浮いていたのでタッチ。

 すると音楽と共に景色が一変。

 風になびく草木、広々とした空、そびえ立つ壁の向こうに家々とお城。

 そして『Second Role Ability』とタイトル。


 どうやらスタート画面に来たようですわね。次は確か、



「ゲームスタート」


《これより、『Second Role Ability』を開始します。作成データがございません。キャラクター作成からおすすめください》



 目の前に文字が浮かび上がり、音声が流れましたわね。この音声に従えば良いのかしら。



「まずは名前ですか」



 目の前に半透明なキーボードが出現しましたわ。すごい技術ですわね!

 わたくしこういったゲームは初めてですが、悪役令嬢という単語を調べているうちに悪役令嬢のタグやタイトルが付いた小説から、つい気になってVRMMO系なども読んだりしておりましたから多少は知識がございます。


 なのでオンラインで何かやる場合には実名はダメ。だからハンドルネームの様なものがいいと。

 ここは名前をもじってリサリアで。


 

《リサリア、承認いたしました。次にアバターとなるキャラクターの容姿を決めてください》


 

 今度は目の前に等身大の自分が現れましたわ。ホントすごいですわね。

 容姿は確か、背丈は上下20センチまで、髪の色と眼の色、髪型に目付き、それに女性なら……バストサイズが変えれるんでしたわね。


 ゴホン、まずは背丈。

 これはそのままの150センチで。平均よりも少し小さいですが、いじったら負けた気がしますわ。えぇ、ほんの少しですし!


 つぎは髪の色、髪型、眼の色、目付き。

 眼を赤にして目付きを少し目尻を上げて、黒だった髪は金髪で縦ロールにしてみましょう。これならクラスメイトや身近な人に出会ってもわたくしだと気が付かれないですわ。

 実はこの髪型、ちょっとやってみたかったゲフンゲフン。


 あとはバストサイズ……。

 これもちょっとぐらい…………一応Bはありますし、クゥッ!


 背丈とバストサイズは弄らず容姿を決定……決定しまして!!

 


《キャラクター作成お疲れさまでした。これより質問フェイズへ入ります》


《アナタは人間は区別されるべきだと思いますか》 


「もちろん、そう思いますわ」



 人間は似合った能力の職に就いた方が良いですもの。それは生まれた家柄、育った環境、本人の能力と様々な事柄が絡んできますが。

 この辺りはお爺様の教育ですが、わたくしもそう思いますわ。



《上に立つ者には相応の責任と覚悟が必要であるか》


「それはもちろんですわ。むしろそうでないのなら、相応しい方に譲るべきですわね」

 


 なんだか質問がとても極端なモノばかりな気がしますわ。まぁ、まだ2問ですもの。気のせいですわね。


 いくつかの質問を終え最後の質問。



《アナタは、大声で助けを求める人が居たらどうしますか》


「時と場合によりますが、あまりにもハシタナイ様でしたら注意をし、どのように困っているのか聞いてから決めますわ」


《…………照合終了、役職ロールを割り振りまた。これは変更できません。ゲーム開始の際にご確認ください》


《次に職業とステータスを決めてください》



 今度は2つのウィンドウが出てきましたわね。

 左が職業で、右がステータス。

 剣士、魔法使い、錬金術師、召喚術師などなど、どれも面白そうで迷ってしまいますわね……あら、端っこに‟おまかせボタン”が。なになに、アナタに合った職業が選ばれます。稀にレアな職業が当たります。よしこれを押してみましょう。



《おまかせにより、アナタの職業は‟傲慢な断罪者”となりました》


「え?」



 なんですの、その物騒な職業は!

 ‟法よりも自分の意志に歯向かう者を断罪する職業”

 って思っていた通りな職業でしたわ!


 確かこの状態でもSRAの掲示板が視れたはず……検索したら出てこないですわね。ってことはレア職業…………悩ましいですわね。

 面白そうですし、やってみますわ。女は度胸!



《それでは、『Second Role Ability』の世界をお楽しみください》



◇◆◇◆◇



 まばゆい光に包まれたと思ったら、草原でもなく街の中でもなく、室内ですの?

 来ている服もゴスロリと呼ばれるものだったかしら。現実ではまず着ない服装ですわね。


 あたりを見渡していたら、扉が開きメイド服姿女性が出てきましたわ。



「お嬢様、よくぞいらっしゃいました」


「あなたは誰なのかしら。そしてここはどこですの?」



 何やら歓迎されているようですが、現状が全く分かりませんわね。

 普通なら、広場や草原などに出るはずだと思うのですが。



「まずはご自身のステータスをご確認ください。ステータスと念じれば出てきます」


「…………これは……」



 出てきたステータスはこの様に。



名前:リサリア=ディカスティース

性別:♀

役職:悪役令嬢 Lv1

職業:傲慢な断罪者 Lv1



 何ですのこの家名に役職ロールは!?

 ディカスティース、確かギリシャ語で裁く者という意味だったかしら。それで悪役令嬢で傲慢な断罪者って狙いすぎにも程がありませんこと。



「我々一同は、お嬢様のご到着を心待ちにしておりました」


「貴方以外にも居りますの?」


「申し遅れました。私の名前はジルスチュア、ここのメイド長をさせていただいております。そしてこの屋敷には、他の多数のメイドや執事がおります」



 あら、やはりここはお屋敷だったのね。



「それで、なぜわたくしはここに居るのかしら?」


「お嬢様の役職ロールと職業のチュートリアルの為でございます」



 すごいVIP待遇ですわね。

 そもそもこの役職ロールと職業は何なのかしら。



「まずは役職ロールである悪役令嬢。傲慢でありながらも誇り高き高貴な一族の末柄。主に傲慢な振る舞い、金や権力に物を言わせてあくどいことをするとレベルの上がる役職ロールでございます」


「なるほど、まんま悪役令嬢というわけね」


「傲慢な断罪者。こちらは自分に敵対するもの、意にそぐわない者には無慈悲な鉄槌を下すスキルも持つ対人戦が得な職業となっております」


役職ロールと職業が恐ろしい具合にマッチしていますわね……」



 何でしょう、このヤレセ感の様なモノを感じますわね。

 それにしても、まさか悪役令嬢になるとは思いませんでしたわ。



「そのお姿に相応しいかと思われます。まさに神の采配・・・・かと」


、ねぇ……」



 こちらの神なのか、向こうの神運営なのやら。

 それにしても、目の前の彼女。まったくノンプレイヤーキャラクターN P Cに見えませんわね。確か、全NPCは人間とそん色のない人工知能があるという触れ込みでしたわね。

 


「それではお嬢様早速チュートリアルを開始しましょう」


「えぇ、おねがいしますわ」


「まずはこちらの武器をお取りください」



 そういうと彼女は乗馬用のムチを差し出してきましたが、これが武器?



「武器ですの?」


「武器でございます」


「本当に武器ですの?」


「本当に武器でございます」


「……マジですのね」


「マジでございます」



 どうしてでしょうか。この後の展開が手に取るようにわかりますわ。

 以前に向こうの世界リアルでも、



「有栖坂さま、ぜひとも蔑んだ目で、その綺麗なお御足で僕を踏んでくださいッ!」



 などとアホな事を抜かした方がそこそこ居りましたわね……。

 目の前のジルスチュアが似た雰囲気を出しているのでわかりますわ。


 ため息を吐きながら、わたくしが彼女からムチを受け取ると、彼女は目を輝かせてこう言った。



「さぁお嬢様、初めてのお勤めとしてこの私をそのムチで――――」


「フンッ!」


バチンッ


「あふん♡」



 ジルスチュアが言い終わる前に、その頬をムチでひっぱたいてやりましたわ。

 これがチュートリアル? なんですの、まったく!

 やれと言うのであれば、存分にやって差し上げますわ!!


 たれた頬を抑えて倒れこんでいるジルスチュアを無視してステータス画面を開く。



「確か、スキルがありましたわね」


「は、はい。はじめはスキル名を呼びながらやると良いかと」



 こ、これを言いますの? ネタ過ぎますわ……。

 しかし、1度決めたらやり遂げる。それがわたくしですわ!



ムチの跪きなさい嵐!このブダども!


「あひ♡ あっ♡ あふっ♡」



 スキルが終わると、座り込みメイド服の所々が破れ、頬を上気させ息絶え絶えのメイドブタ姿が。おっと、いけませんは。これではブタに失礼ですわね。

 メイドゴミでしたわ。



「あぁぁ、そのようなゴミクズを見るかのように蔑んだ目で見下して頂けるなんて……大変ありがたき幸せでございます」



 おかしいですわね。

 わたくし、VRMMORPGをやりに来たのでなかったのかしら……。ある意味で異世界ですわ。



「さぁさぁお嬢様。今度は悪役令嬢として、屋敷に居るメイドや執事たちに理不尽なお申し付けを!」



 立ち上がり迫る勢いでわたしくに向かってくるメイドゴミ



メイドゴミの分際でその様な格好で近づかないでくださる!」


バチンッ


「あひぃ♡ も、申し訳ございません」


「ほら、早く着替えてきなさい」


ベチンッ


「あふっ♡ はい、今すぐに」



 ジルスチュアの反応を見ていると、なんだか、少しだけ楽しくなってきてしまいましたわ……。

 あれ、意外とわたくしに合ってる?


 オホホホ。

 そんなはず、無いですわよね?

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