Episode2 夏祭り
私はカランコロンと
時刻は7時15分、15分の遅刻だ。
『待ってる』と言ったが、待たせてしまっている。
(やばい、護待ってる!)
鳥居の前に、護が立っているのが見えた。
だが、浴衣を着ているせいで上手く走れない。
ようやく護のもとに着いた頃には、息も絶え絶えだった。
「ま、護。遅れてごめん。浴衣着るのに手間どっちゃって……」
護はこちらを向かず、顔を背けている。
どうしよう、怒らせたかな……?
「……護? 怒ってる……?」
恐る恐る聞く。
「……い」
「え?」
「可愛い……」
真っ赤な顔と、消え入りそうな声で、褒められた。
「あ、ありがと……」
面と向かって褒められたのは初めてで、こちらも照れてしまう。
祭りの喧騒の中、しばらく沈黙が続いたが、護が沈黙を破った。
「ま、祭り!早く行こうぜ!」
「うん!」
突然、手をつかまれ、
「わっ!?」
「足元、下駄で歩きにくいだろ。手ぇ繋いどけ」
護が手を引き、私たちは歩き出した。
少し歩くと、りんご飴の屋台を見つけた。
「あ、りんご飴! 買って来る!」
「ちょっと待ってろ」
護は私を屋台の横に待たせ、列に並んだ。
しばらくして、片手にりんご飴を持った護が戻ってきて、私に手渡してくれた。
「ありがと。お金……」
払うよ、と言いかけたところで、
「今日は俺の奢り。だから、気にすんな」
言葉を遮って、護は言った。
それから、たこ焼きやかき氷を食べたが、全て護が奢ってくれた。
申し訳なくなってお金を払おうとしたら、全て「彼女なんだから、奢らせろよ」と言われて、結局全て奢られてしまった。
屋台を楽しんだ後、私たちは神社の石段に腰掛けた。
8時から上がる花火を見るためだ。
この花火は『一緒に見たカップルは、ずっと一緒にいられる』というジンクスがあり、毎年たくさんのカップルが夏祭りにやってくる。
護はこの神社の息子なので、あまり人が来ないところを知っていて、そこへ連れて行ってくれた。
「たぶん、ここならあんま人来ねぇぞ」
「ありがと、護」
「何が?」
「一緒に夏祭りに来てくれた事と、彼氏になってくれたこと」
「俺さ、『いつか彼女ができたら、
「……言われてみれば、私もそのぐらいから好きだったかも」
「何だよ、俺ら両想いだったのかよ〜!」
「そうだねー!」
私と護が笑い合ったところで花火が始まった。
「わー、綺麗!」
「……幸奈!!」
「何?」
横を向いたその時、
「んっ!?」
いきなりキスされた。
「え、な、何?」
「……ずっとこうしたかった」
鳥居のところで見せた表情で護は言った。
花火が終わり、祭りの喧騒が残る中、私たちは帰路についた。
この時、私は明日自分を取り巻く環境が変わるとは考えてもいなかった────
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