第二十三話:竜闘術/ドラゴアーツ
「......ッ!」
......上手い。
全力を込めた蹴りがバルクさんの突進とカチ合った瞬間、バルクさんが上方向のベクトルに力を加えたことで片脚では到底踏ん張りが効かなくなり、吹き飛ばされそうになった。
「フッ、んッ!」
そこで、体の前に構えられていたバルクさんの腕を踏み台に宙返り、丁度足元にやって来た頭へと右足を振り抜いた。
「おっ?!......と!」
上へ力を加えた事で多少は姿勢が崩れたことを期待していたが、やはりそこまで大きな隙は見せてくれなかった。
寧ろ、此方が宙返りを打とうとするのを手応えで感じとるや、直ぐ様構えていた手でガードの体勢を取った。
その結果、振り切れなかった僕の右足とバルクさんの左腕が今一度カチ合い、然し先程よりも圧倒的に僕の姿勢が不利だ。
取り敢えず、このままでは不味い。
そう考えるや否や右足を押し付け、反動で飛び退ろうとするが......
「やっ、ぱ?!」
それは読まれていたようで、僕の右足は大きな左手に捕まった。
「はっはっは!甘いぞホムラくんッ!!」
言いながらバルクさんは、軽々といった様子で僕を地面へ角度をつけて投げつける。
片手とは思えない膂力によって斜め下方向へ投げ落とされるが、咄嗟の回転運動で事なきを得た。
わざわざ叩きつけずに投げ飛ばされた、これは仕切り直しかな?
「流石、私と違って若者は身軽だね。
......次は
「良いです、ねッ!」
言葉と同時に、ドラゴニュートらしい姿となった俺達は正面からぶつかり合った。
俺の額からは二つの角が後ろ向きに伸び、竜眼は紅く輝き、背には一対の竜翼。
逞しい四肢はそれぞれが四本指の竜のソレに近づき、太い尾を地に垂らす。
全身が引き締まり爀い鱗に被われた姿となった俺は、尾も使って地を叩き、真っ直ぐに飛び出した。
大してバルクさんは、元から大柄だった体躯が更に一回り大きくなり、日頃から出していた角はより太く、全身が赤く輝く鱗に被われて一層頑丈そうな印象を受ける。
互いに爪や尾、翼までもを駆使し、人間離れした動きで激しくぶつかり合う。
然しバルクさんのそれは明らかに何かしらの“技術”に則った動きだ。
それは、
竜と共に生き、誰しもが多かれ少なかれ竜の力を継ぐこの国ならではの、ドラゴニティを前提とした体術。
レヴィア先生との
......言わば、千年近い歴史を持つ武術の一体系だ。
勿論
軽く数度打ち合ってから互いに距離をとった後、今度は俺から飛び込んだ。
「行くぜッ!!」
翼に空を掴み、バルクさんの周りを舞い窺う。
ドラゴニティも加わるとなればますますパワーでは敵わないだろうから、殺すつもりは全く無いが疾く飛び回り急所を狙う、いつものスタイルでいく。
「フッ!!」「ハハハハッ!!」
先ずは一撃、上空から鉤爪を剥き出しに蹴りを一つ。
これは地で待ち受けたバルクさんの鋭い指爪に高い音をたてて払われた。
敢えて逆光になる上空からの急襲を、爪で往なす技術は流石。
その後も周囲を飛び回り様々な角度から襲い掛かるも、その悉くが巧みに躱されてしまい中々イイのが決まらない。
そうする内に、やがてバルクさんは翼を広げながら言った。
「うーん、流石に地に足着いては反撃させてもらえないねぇ......。」
「そりゃ、捕まったらあっさりやられちまうでしょうしね。」
「だから......やっぱり捕まえに行くよッ!」
言うや、俺のような直線的なものではなく舞うように滑らかに空へ飛びんだバルクさん。
互いが存分に宙に出てしまえばもう、上下左右は殆ど関係ない。ドラゴアーツに縛っている今、あるのは相対距離だけ。
付いては離れ、俺は捕まらないように、バルクさんは距離を潰すように。互いに攻撃の機会を窺う。
......しかし流石は千年の歴史というか、バルクさんは見かけに拠らず妙に上手い戦いをする。
自在な尾は油断ならないし、時には翼を目眩ましに使ったりする。上をとって陽の目潰しかと思えば重力に任せて潜り込んで来たりもする。
そう、技術的に巧みなのだ。これが千年の積み重ねかと思うと面白いし、学べるものが多くとても楽しい。
対して俺の居た須佐之國にはそんなに長い歴史は無く、ここ二十年程でやっと
言ってみれば戦術の様なモノに乏しく、機械仕掛けの力技な部分が多かったのだ。
少なくとも、それで竜とは戦えてしまえていたのだから。
そんな俺でもなんとかバルクさんとやり合えているのは、竜相手に戦った経験が、竜の戦い方を元にした武術を使うバルクさんにも活きているからだろう。
然しやはり、竜というある種の災害現象生物とその力を操る人間とでは少なからず勝手が違って......竜ならば決してしないような“技”の数々にやり込められてしまい、最後には鍛錬場へと叩き堕とされてしまったのだった。
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