第二十二話:手合わせ

 へぇ......


「なんかこう......ある種の“英雄譚”のオチにしては、妙に人間臭いね。」


「まぁ多少の脚色はあるにしても、実話が元になっているからかしらね。」


 アーサー王とランスロットの出会いから別れまでの話は、恋愛的な側面を持つからか史実としても、ひとつの物語としてもこの国ではメジャーな話らしく、休みの日や祭りの際には王都内の劇場で劇が演じられている程には人気の、この王都一の劇団の伝統芸でもあるらしい。

 丁度来週辺りにも公演はあり、僕も見るチャンスはあるだろうとのこと。


 勉強会は終わり、そんな雑談をしているうちに昼食の時間になっていた。

 今日の昼食はバルクさんお手製ではなかったが、やはり素晴らしいものだった。


 昼食を終え少しの食休みをしていると、なにやら食事中からソワソワしていたバルクさんが何かを待ち切れなくなったようで切り出した。


「ホムラくん、そろそろどうかな、沢山食べたようだがお腹は落ち着いたかい?」


「あ、はい。もう大丈夫です。

 ここでの食事はどのお料理もおいしくてついつい食べすぎてしまうんですよね、特に訓練の後だと。」


「はは、そうか。それは良かったよ。

 ......それで、早速だけど食後の運動なんかどうかな?」


 鍛錬を見てくれる、と言ったが、実際お互いの実力なんて知らないからまずは手合わせから始めることになっていた。多分そのお誘いだろう。


 ......もしかして、このバルクさんは戦闘狂のうきんの気があるのかもしれないな......。


 なんだか子供のように無邪気な様子で僕との手合わせを楽しみにされていたようで、思わずそんな失礼なことを考えてしまった。

 しかし返答は決まりきっていて、


「では一手、お願いします。」


 一択だった。




 バルクさんのお屋敷の裏手には、僕達の堕ちてきたあの森よりは少し小さめの、小さな丘のある森に繋がる広いバックヤードがあった。

 その一角は他と違って草が刈り取られ土が剥き出しになっていて、バルクさんたちはそこを鍛錬場として使っているらしい。


 そこで向かい合うのは僕とバルクさんだ。文字通りに子供と大人程の体格差が如実に現れている。

 鍛錬場の隅ではレヴィアが腰を下ろして見学している。


 こうして相対すると、バルクさんが大柄だというのもあるだろうけどそれ以上に凄まじい迫力だな......。


 僕の背丈は百六十と少し。対してバルクさんは、少なくとも二メートルは超えているだろう。

 その体格差の上、さらにバルクさんからはヤル気というか、闘気のようなものがひしひしと伝わってくるのだ。


 これでまだ角以外の竜特性ドラゴニティは抑えたまんまなんだよな......


「準備運動はもう十分かい?それじゃあやろうか。先ずは無手から。」


 今日の朝食の中で出た僕の鍛錬の話から、互いの戦闘スタイルや得意な戦法、能力傾向などなど話が膨らんだため、今更打ち合わせはいらない。


「はい、行きますっ!」


 さっそく細かくフェイントを織り交ぜたステップで様子を見ながら間合いを詰めていく。


「どこからでも掛かっておいで!」


「ではッ!」


 お言葉に甘えて、一応は不意を狙った急加速からの右拳の突きを打ち込んでいく。


「ハッ!」


 然しそれも、軽々と太く頑丈な左腕に払われた。

 もとよりバルクさんにあっさり決まるとは思っていない。


「フッ、ッ!ッ、ッフッ!」


 弾かれた勢いも使って軸足でスピン、左右の拳打をリズミカルに繰り出す。

 ......始めから力比べは不利と見てる。だからひたすら手数で押していく。

 そもそもこれは詳しい勝敗も決めていない“腕試し”だ。

 ......それでも、簡単にやられるつもりは無いなッ!


「ハッ、フッ!ハッハッハッ!!」


 バルクさんはとてもいい笑顔で気炎を撒き、守りが堅い。


 足を止めて殴り合えばいずれリズムをつかまれて捕まってしまうだろうから、やはり細かくステップを挟み、時には蹴撃も交える。


「中々っ、フンッ!対人、はッ!慣れ、てるっ、ね!!」


「えぇ、ま、ぁ!それ、なり、にっ!!」


 それからまたいくらか打ち合い、互いに距離をとったところで自然と仕切り直した。


「......ふぅ。やるねぇ、ホムラくん!」


「バルクさんも、流石の守りですね。」


「まぁ、伊達に歳は食ってないさ。......次はこっちから行く、よッ!」


 言うと同時に突進をカマすバルクさん。

 こうも真っ直ぐ突っ込んでこられるとあっさり避けられそうな気もするが......

 敢えて受けようか。


 膝を曲げ、溜めた力を解き放つイメージで前へ。

 左で踏み切り、全体重を乗せた右で渾身の中段蹴り。


「......、ハァッ!」「ッッ、フッ!」



 衝突の瞬間、頬が釣り上がったのが自分でも分かった。

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