第十八話:一日の終り。
三度目ともなると、こちらの食事にも多少は慣れてきた......ような気がした。
然しやはり気の所為だろう。良く考えれば......考えなくとも、まだこの国に来て一日も経っていないのだ。
だからだろうか。幸せなことに、こちらの料理は何度味わってもその度にそのあまりの美味しさに感動が止まらない。
しかも、朝昼晩でそれぞれにバリエーションがあるらしく、僕が食べたのはそれぞれを一度ずつ。まだまだ飽きさせてくれはしないだろう。
ここに辿り着いてまだ一日、すっかり食べることは僕の生きる楽しみのひとつになってしまっているようだ。
さて、とはいえこの国に来てからまだそれ程の時間しか経っていないことには、我ながら驚きを禁じ得ない。
すっかりこちらの空気に馴染んでしまっている自分にも。
それこそ今までの人生を殺伐とした環境で過ごし過ぎたせいか、驚くほどこちらの空気が心地よく、今まで四六時中気を張り詰めながら生きてきたのが馬鹿らしく思えてしまうほど、僕はこの国を気に入っていた。
この一日で過ごした幸せを抱いて死ねるなら、この国で見た全てが嘘であろうと構わない......などと、最早開き直りに近い心境に至っていたのだった。
然しそれはそれ、これはこれ。
僕が「
「......まあ無理には直さなくてもいい習慣かな。」
もし今後不都合があれば、その時考えよう。
そう切り替えて、無手での軽い訓練を始めたのだった。
体感で二時間ほど経っただろうか。
だんだんと調子が出てきたところで、ふといつもの薄ら寒さを感じた。
それはいつからか、夜の訓練で盛り上がってくると感じるようになった謎の寒さ。
普通運動をすれば感じるのは暑さの筈なんだが、未だによく分かっていない。
しかし、鍛錬の時間とコンディションのいい目安として有効に活用している。
そろそろ止め時かと思い集中を解くと、少し離れたところの草むらにレヴィアが座ってこちらを見ていた。
「あら、おしまい?」
「ああ。今日はこのくらいにしておく。
......それより、いつからいたんだ?」
「少し前......十分くらい見てたのかしらね。
昼に軽く武術もチェックするとは言ったけど、やっぱりあなたには必要なさそうね。私じゃ相手にもならなそうだわ。」
「そんなことは......僕は君の実力とか、基準になりそうなものを知らないから何とも言えないが。......強いんだろう?レヴィアは。」
「学園の同学年の中では、上のほうね。
それでも、少なくとも今見た限りでは、徒手空拳のあなたとすら互角に渡り合えるのが果たして学園に何人いるかしらね?
少なくとも私は無理ね。」
「そうなのか?」
「そうよ。それにそのうえあなたは武器やら......少なくとも能力や竜特性くらいは自在に使えるんでしょう?
能力は型の時に少し出してたし、竜特性は現すよりもむしろ抑える方が難しいんだから、いつも抑えてるあなたに扱えない訳はないわよね?
......そうなると、学園ではお父様くらいじゃないかしら、あなたとまともにやりあえるのって。」
驚いた。伊達に戦闘訓練を積んでないが、それでもそこまで言われるとは。
「確かに他にも能力はいくらか使えるが......」
「はっきり言って、あなたが学園で学べることは、こと戦闘に於いては殆どないと思うわよ?」
「そうか......。学業に専念できると、思っておくよ。」
「そうね、そっち方面で期待しているとあなたはがっかりするでしょうし、それがいいと思うわ。
他に得意な武器とかは?
歴史の話でも少し触れたけど、ドラゴンナイトの多くは竜や龍の背に乗ってサポートをしたりするスタイルだから、学園では長柄の物や飛び道具、それから自前の能力をメインで使おうとする人が多いわ。」
「その中で、だと僕は自前の能力がメインかな。
幸いラースが天と地の属だから、
「そうなの?それはいいわね。
......と、そろそろ私は寝ようかしら。あなたは?」
「僕も汗を流したらもう寝ようかな。今日は疲れちゃった。」
「そう。それじゃあ、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみなさい。」
こうして、ドラグエール王国での、そしてドラゴフレイム家での一日目が終わった。
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