第十六話:王国史

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 むかしむかし、世界が悪しき古龍によって断ち分かたれた直ぐ後のこと。

 世界には悪しき竜や古龍とその「抜け殻」や“龍災”が溢れ、人々は今にも潰えそうなほどに苦しんでいました。


 しかし、古龍にも悪しきりゅうばかりでなく、その中にはい「ドラゴン」もいました。

 その一柱、「ドラグ=ノア」......人々には「オリジン・ドラゴン」と呼ばれた最も偉大なエンシェント・ドラゴンは、人々を愛する心優しいドラゴンでした。


 オリジンは「ドラグ=ラース」......後の「ディスガイア」の父でした。

 我が子の暴走に心を痛め、それを止めることの出来なかった償いとしてドラゴン達の先頭に立ち、悪しき竜や古龍の齎す災禍わざわいから人々を護りました。


 爪牙振るいて禍と戦い、翼拡げて民を護る......その姿に一人のドラゴニュートの青年が声を上げました。

「守られてばかりではいられない、共に戦おう!」

 その声に賛同した多くの人々によって小さな騎士団が出来上がり、それがいつしか国となりました。

 その声を上げたのが「初代護龍騎士団団長」にして“騎士王”、「アーサー・ペンドラゴン」でした。


 そうして出来たこの国が、今の「ドラグエール騎士王国」。

「ドラゴンの翼のもとにある国」......「ドラゴンの友の国」でした。



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 然し人々は、初めから上手く戦えた訳ではありませんでした。

 ......それどころか、それまでは戦う力もなく、オリジン達によって護られていたのです。

 人々は考えました。


 一体どうすればドラゴンの友と共に戦えるだろうか。


 ......たくさんたくさん考えました。


 ......たくさんたくさん間違えました。


 ......そうしていつしか、人々は気付きました。


 何も共に戦うばかりがドラゴンのたすけではないのではないか。

 確かにドラゴンは皆、我ら人より強大で......故に言葉通りに共に戦うのは難しい。

 しかし我らが為に傷付くドラゴンの友を、我らが護ることはできないのだろうか......。


 そうして人々は、人とドラゴンが互いに護り、護られる関係をつくりたいと考えました。


 ......その為にドラゴンナイトごりゅうきしは生まれたのです。



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 千年のうちに、人々は、ドラゴンナイト達は“龍と共に在るすべ”を編み出しました。

 それが「護龍学」です。

 それは時と共に少しずつ形を変えましたが、龍を“護る”という根本の考えは変わりませんでした。


 ところで、竜や......特に龍は、元々どのように戦っていたのかご存知でしょうか。

 彼らはおおきなからだを持ち、鋭い爪牙ブキを備え......龍はそれぞれが超常の異能を操りました。

ようたい」は自然の災いいかりと共に生まれ、長い年月を経てそれぞれが大きく成長した後に再び相見あいまみえることで「せいたい」へと至ります。

 その時に多くの龍は災禍を取り込み、自らの災禍に由来する超常を意のままに操るようになり、また幾らかの龍は成長の過程でさらに特異的に目覚めた固有の異能チカラを有します。


 そして基本的に竜や龍どうしの戦いにおいて、彼らは“防御”という事をしません。なぜなら、自慢の体と竜/龍族の鱗や皮膚が多くの場合で竜/龍どうしの攻撃においても十分な機能を果たすからです。

 なので、生半なまなかな攻撃は無視し、時に躱し、互いに致命足りうる傷を与えるべく弱点を狙い合い駆け引きをします。


 そして、地属の竜や龍以外は自在に空を飛びますが、やはり通常、大天おおぞらにおいては天属の竜や龍が最も有利といえます。

 それでも、地属の竜や龍は大地を操ることの出来る者が多く、地に足着く限りはほぼ無限と同義の弾幕を張り続けられたりします。

 同様に、海など膨大な水を蓄えた場所では水属の竜や龍の独壇場になり得ますし、灼熱の火山等では火属の竜や龍が圧倒的に有利でしょう。


 要するに、竜や龍族の戦いというものは環境要因と攻撃が大きな割合を占めると言ってもいいでしょう。

 稀に、特異な力や規格外に強大な自力などでその前提を覆す者もいますが、基本的にはいかに弱点を突き有効な攻撃を先に加えるか......その駆け引きになりがちです。



 それらを踏まえて「護龍学」というものについてです。

 人々を“守る”為に戦う龍を人が“護る”為の学問です。



 今では人が文字通りに竜や龍と共に戦う「護竜騎士」という形でそれが確立されましたが、昔の試行錯誤の間に竜や龍の戦闘に人が関わることで、龍に対して効果的な治療法や武装などの副産物が生まれました。


 それら全てが包括的に、「護龍学」とそう呼ばれています。

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