第十二話:重い話

 朝食は素晴らしいものだった。

 空腹のせいもあったのだろうが、それ抜きにしたって今まで食べたどんな食料よりも美味しかった。

 あまりの感動から挙動不審になっていたらしく、バルクさんから口に合わなかったのかと逆に心配されてしまった点は反省しようと思う。

 ......いや、寧ろ反省すべきはその誤解を解くために必要以上に今までの事を話してしまって、家族の楽しい歓談の空気をぶち壊したことか。


 こんなに美味しいものは食べたことが無かった、と話し始めて、気付けば里で龍人として受けた差別の話で着地するとは......我ながら口下手が過ぎる。


 どうやら今まで口にしていたのは、戦士として必要な「栄養素」であって、このご馳走と比べればあれは決して「食事」と呼べるようなシロモノではなかったようだ。


 それに、これまでろくに人と関わったことが無かったのも良くなかった。

 記憶にある中で一番言葉を交わした人間が、業務連絡くらいしかしなかった所謂上司だったことには我ながら驚愕だ。


 要するに、余りに人とのコミュニケーションというものの経験が不足していたせいで、素晴らしい食事の感動を伝えようとしたはずがアホみたいに重い話をしてしまったようだ。


 結果、先程からバルクの目線は生暖かいそれへと変わり、レヴィアの目からはあからさまだった険しさが消滅した。


「お前さん......今まで苦労して来たんだな......。」


「なんか、悪かったわね......。そんなに好きならもっと食べなさいよ......。」


「お主よ......。」


 有り体に言って申し訳ない。


「い、いえいえお気になさらず!

 そんなつもりで話したのではなく......寧ろ話すつもりもなかったことまで感動に釣られて出てしまったと言いますか......!

 聞き苦しい話をしてしまってすいません、どうか本当にお気になさらず......!」


「ほら、これ知ってるか?私の好物でな、美味いぞー!」


「私のおかずもひとつあげるわ。」


「我はやらん。腹が減っている故な。」


「ちょ、そんなには食べられませんって......!!

 むしろラース手伝って!?」






 そんなこんなで朝食が終わり、徹夜で仕事をしていたらしいバルクさんが仮眠をとりに寝室へ向かったあと。

 少し食べ過ぎたかと、苦しいお腹を宥めているとレヴィアが話しかけてきた。


「そういえばあなた、護竜騎士ドラゴンナイトを目指すんですって?」


「そのつもりです。あと、僕のことは「ホムラ」と......」


「分かったわ、ホムラ。

 あなたがどれくらい出来るか分からないから、要らないお世話かもしれないけど......私、こう見えて国立王都護竜騎士養成学園に通ってるの。

 もし良ければ、入学試験までの一月の間なら学校も休みだし、色々教えてあげるわ。

 ......というか学生を休みで家に帰してから新入生の試験をするのよ。

 だから新学期までの私の復習にもなってちょうどいいわ。」


 聞くところに拠れば、丁度昨日から一月と少しの間は学園が長期休暇で、レヴィアもつい昨日帰省したところらしい。

 それに合わせて家に戻ろうとしていた所を邪魔してしまったらしく、バルクさんには本当に迷惑を掛けているなぁ......と思った。


 それはそれとして。


「是非お願いしたいです。学園の試験科目には勉学もあるのでしたよね。

 僕は戦うことしか能がないので、そちらを教えて頂けるとありがたいです。」


「分かったわ、任せなさい。

 入学試験を余裕で突破出来る程度にはしてあげるわ。

 早速今日の午後から始めましょうか。

 ......それと、そんなに堅苦しい話し方は、お父様にはともかく私にはしなくていいわ。

 私のことはレヴィアと呼んで。」


「わかりま......分かったよ。よろしく、レヴィア。」


「えぇ。それじゃ、また昼食の後で。」

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