第十話:王都
「とはいえ、今すぐ決めろとは言えないからね。
先ずは我が家で暮らしてみながら、ゆっくり考えてくれていいよ。」
「......はい、そうさせてもらいます。」
正直に言って、素直にとってしまえばこの話はとても......とても都合がいい。
バルクさんはいい人そうだし、どうしてもこちらを騙そうとする悪人のようには思えないんだ。
その意味で、この出会いは僕らにとってこの上ない幸運だったと言える。
しかし、然しだ。
だからこそ、どうしても構えてしまう。
今のところこの王国に来て出会った人はバルクさんただ一人。
バルクさんを疑う訳では無いが、こんな重大な話は流石に即決できない。
「流石に私も急な話だとは思っている。
殆どこの場の思いつきと言ってもいい程だ。
だから先ずは、一旦この話を忘れるくらいの気持ちで我が家に滞在してみて欲しい。
矛盾するようだが、その上でこの話を考えてくれ。」
「......分かりました。先ずは居候として、よろしくお願いします。」
「居候だなんてとんでもない!お客様として精一杯おもてなしするよ。
......と、もうそろそろ到着か?
少し気が早いかも知れないが、言わせてくれ。
我らが「王都二アンヘイム」へようこそ、「天地の相克」、「龍の
「おぉー......」「......ふむ。」
僕は、馬車から少しだけ身を乗り出しつつ大きな門を通った。
さすが貴族だけあって顔パスらしく、すぐに王都の街並みが目に入った。
そして、ちゃっかり頭に乗ってきたラースと一緒に、感嘆の声を零した。
門から続く大通りには人が溢れ、盛んに楽しげな声が飛び交う。
通りの両脇にはレンガ造りの家や店なんかが整然と並んでいて、見ているだけでもとても楽しませてくれる。
時たま見られる、街並みの隙間の路地から放たれる未知の気配に、知らず心が踊る。
「これが......王都、二アンヘイムか......。」
そのとき、人々のうちの幾らかが空を指差し何かを言い出したと思えば、通りは途端に先程までを遥かに上回る喧騒、歓声に満ちた。
「な、なんです?!」
「これは、丁度いいタイミングだったかな?
皆の示す方をご覧、「ドラゴンナイト」だ。」
言われて見上げた空。
馬車の中からとあって少し苦労したが、何とか身を捩り視界に収めることが出来た。
そこにあったのは......
光を
「あれが、我が国の
水龍人の「カイン」さんと、その相棒の古天龍「ドラグ=バルゴ」様だ。
バルゴ様は代々の騎士団長の相棒を務めていらっしゃるお方でな。
この国でも二番目の人気者なのだ。
御二方はいつもこうして、任務の帰りにはわざわざ姿をお見せ下さるのだ。」
「道理で......。」
俺は威厳溢れる翡翠の天龍と、その背の騎士を眺め続けた......。
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