第九話:家族

「最初の質問というか......お願いなんですけど。」


「なんだい?」


 こちらの国について、あらかたの話を聞いて考えた。

 やはり一番の問題は、どうやってこの国で


「仕事を紹介してくれませんか?」


「仕事......か。ああ、なるほど。」


 そう、仕事だ。

 里を無一文で飛び出してきて、僕には今何も無い。

 精々が、人より上手く竜と戦えるくらいか。


 しかし学園はとても規模が大きく、もはや学生と関係者、学園の施設だけで一つの街のようなものを形成しているらしい。しかも国立、全寮制。

 だから入学さえすれば生活は保証されると言っても良さそうだ。


 ......入りさえすれば。


「はい。入学試験以前に、まずは日々の糧を稼がねばいけません。

 学ばなければならないこともあるでしょうし、お言葉に甘えて宿をお借りしても、お世話になりっぱなしと言う訳には......」




「そのことなんだがな。

 もし、ホムラ君さえ良ければ......ウチの子にならないか?」




「..................はい?」


 ............何て?


「出会って間もない私にこんな事を言われても、とは思うだろう。

 少しすっ飛ばし過ぎたとは思う。順を追って話す。

 しかし最初に言った通り、行く宛が無いなら、ウチに泊まってくれて構わない。いくらでもな。

「天地の相克」と「龍の堕馨仔おとしご」をおもてなしできるなら、光栄なことだ。」


「ま、待ってください!

 確かに有難いお誘いではありますが、それでは......!」


「そもそも、君と話しながら、せめて君が学園に入るまでは面倒を見ようと思っていた。

 今はまだ君自身のことはよく知らないし、詳しく聞くつもりもない。

 あくまでも私が思うに、だが......「堕馨仔」のことを抜きにしても。

 少し話した感じ君は利発で、多くの者を惹き付けるだろう。

 是非とも一人の人間として我が国に欲しい人材だ。」


「それは......流石に、僕のことを買い被られているかと。」


「あくまで私はそう思っている、ということだ。

 そこに「堕馨仔」として見られてしまえば、ドラゴンナイトとしての未来を嫌でも期待されるだろう。

 それ程までに、この国での「堕馨仔」の意味は重い。

 それこそ、出自がどうだとか、そんな問題を吹き飛ばすくらいにね......。

 だからこれは、言わば先行投資だよ。

 それに、私は確信している。君はきっと、立派な竜の友になれる。」


「「龍の堕馨仔」とは......それほどの伝説なのですか。

 いつの間にかそんなモノになっていたとは、何だか複雑な心境ですね。」


「そこで、ここからはぶっちゃけこちらの打算はなしなんだけどね。

 私には君と同じくらいの一人娘がいる。しかし一人娘しかいない。

 妻は娘を産んですぐにね......。

 そして昔、国王陛下にドラゴンナイトとしてお仕えしていた時の功績で、私は多少特例扱いで騎士兼貴族もやらせてもらっているんだ。

 この国の成り立ちからして、この国の貴族達の間では、“跡取りは竜と共に歩ませる自慢の息子に”、という伝統があってね。

 勿論、絶対という訳ではないのだが......。」


 なるほど?


「跡取り......ですか。

 そういう文化があるのは知っていました。

 それにしても、一代貴族ではないとなると、相当活躍したんですね。」


「まあ、ね。陛下には高く買って頂けたようで、身に余る光栄だよ。」


「そこで、僕ですか......。」


「確かに打算もあるのだがね、運命だとも思うんだよ。

 いつかは養子を取るつもりだった。............婿養子は論外、いいね?

 それに、私も貴族の端くれ。人を見る目には自信があってね。

 どこの誰とも知れないと君は言うが、私はこの短い時間で、“君”は信用に足る“いい人間”だと思ったんだ。

 どうだろう、私の養子むすこに......娘の「兄」に、なってくれないか?」

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