第八話:ドラグエール王国

「はい、構わないどころかこちらからお願いしたいくらいなのですが......

 僕が......「龍の堕馨仔おとしご」、ですか?それは一体?」


「ああ、そうだ。その辺の話は道中話そう。

 森の入口までは馬車で来たんだ。

 そんなにかからないけど、説明には十分だろう。」


「わかりました。お願いします。」






 ということで、馬車に揺られて説明を聞いていた。


「............大体そんな感じだな。何か聞きたいことはあるかな?」


「いくつか。でもその前に、少し頭を整理していいですか?」


「もちろん。いま、ちょうど半分くらいの道のりだね。」


 ここまで聞いた話は、大まかに三つ。

 僕が余りに何も知らなかったので、ほんとうに丁寧に教えて貰ってしまった。

 因みに、ラースは馬車に乗り込むなり眠り出していた。


 先ず始めに聞いたのは、「堕馨仔おとしご」について。

 これは大雑把に言えば、この国に幾つか伝わっている、龍にまつわる伝説の一つらしい。

 上空で朝日に見蕩れていたあの時、ラースの身体が朝日を浴びて反射しまくったせいで、街からでも僕らを見ることが出来てとても目立っていたらしい。

 この街ではまだ夜だったから、余計に「夜空に輝くドラゴン」として目立ったそうな。

 それで、ドラゴンが人らしき影と一緒に堕ちていった、という話は夜中にも関わらず直ぐさま街中に広まり、人々の間で「伝説の堕馨仔」ではと騒ぎになった為バルクさんが出張って来たらしい。


 次に、この国について。

 やはりこの国......「ドラグエール王国」は、竜や龍、それに連なる者達とは好意的な関係を築いているらしい。

 そもそもこの国は龍戦の直後に古龍の庇護を受けて、王権龍授制の国として建国されたらしい。

 だから、「ドラグエール」。「龍の翼」の下に在る国だそう。

 それ以来、千年の歴史を竜や龍と共に歩んできた国とのことだ。

 その過程で、現在この国に生きる五百万の国民は皆、多かれ少なかれ竜や龍の血を汲むドラゴニュート......須佐之國スサノクニでいう竜人や龍人らしい。

 その為、この国の国民はみな長寿なのだそう。

 そしてその中でも龍人は希少で、一パーセント居るかどうからしい。

 といってもそもそものドラゴニュートの人口が須佐之國とは比べ物にならないので、須佐之國よりは居るそうだが。

 それもそうだ。

 かたや、三十数名の中の七割。

 かたや、五百万人の中の一分程。

 比べるまでもない。


 この話を聞いて、八百年も竜/龍と戦争していた須佐之國とは余りに対極の成り立ちで、素直に驚いてしまった。

 然し、殆ど勢いだけでこの国に辿り着いた僕にとって、これ程ありがたい国はなかった。


 次に、僕らの今後について。

 僕らは現状、あてどもなく困っていることを話すと、「護竜騎士ドラゴンナイト」を目指すことを勧められた。

 ドラゴンナイトとは、ドラゴンと心を通わせ、認められることで初めてスタートラインに立てる職業で、そのものの意味で国を護る「騎士」らしい。

 この国では、人に馴れるものを「ドラゴン」といい、人を襲うものを「竜」、その成体を「龍」と呼ぶそうだ。

 そして、竜/龍と戦うという点では、須佐之國の滅龍機士ドラゴンキラーと同じとも言える。

 然し、竜と心を通わせる、という発想は須佐之國には無かったもので、ここでもまた真逆な価値観に出会った。


 バルクさん曰く、僕の場合は既にラースという竜と共にあるから、資格という意味でも問題ないし、そもそもこの国でドラゴンを連れ歩けるのは、騎士として契約を交わしたドラゴンナイトだけらしい。

 その意味では、ラースと共にある限り僕に選択肢は無く、いつの間にか起きて話を聞いていたらしいラースの「決まりだの。」という一声で、僕はバルクさんの務める国立王都護竜騎士ドラゴンナイト養成学園に通うことが......正確には、編入試験を受けることが決まった。


 さらにバルクさん曰く、この国では年に数体生まれるかどうかのドラゴンに対し、国民ほぼ全ての憧れとも言えるドラゴンナイトは、エリート中のエリートとも言える恐ろしい倍率の職業らしい。

 折角目指せるのだから、目指さないと損らしい。なるほど。



「ありがとうございました。それでは、幾つか質問をしたいのですが。」

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