龍の翼の下に在る国

第七話:龍の堕馨仔

「ワイバーン」の最期の一欠片が消えてしまうと同時に、朝日が僕らに追いついた。

 それは、僕にとっては過去との決別の朝日だった。

 西の国がどんな場所かなんて知らない。名前すら聞いたことも無い。


 ......だけど、不思議と全てが上手くいくような気がした。



 さよなら、黒飛竜ワイバーン。おやすみ......。



「ところでお主、感傷に浸っているところ悪いのだがな。」


「ん、どうかした?ラース。」


「我らは「ワイバーン」に乗っていたのだよな。」


「うん......。」


「その「ワイバーン」が無くなったのだが。」



「......え?」



 ..................ゑ゛?












「人生初だよ、凡そ「天の幕」と変わらない高さから堕ちたのは......!!」


「カッカッカ。人類初かもしれんのぅ?」


「コイツ......!!」


 簡潔に言ってしまえば、あの後直ぐに真っ逆さまに堕ちていった。

 そして地表付近で、この小竜が減速、僕を浮かせて助けてくれたらしい。

 今は無事に落下地点近くの森の中だ。


 が、然し。然しだ。僕は騙されない。


 あの場でワイバーンを乗り捨てる形になったのは、まぁいい。

「地の獄」を飛び越えるにあたって仕方の無いことだったらしい。

 だけどそのワイバーンの最期を見届けている間は全く堕ちていなかった。

 空中で完全に静止していたし、それが最大の異常だがそれ以外なんの異常もありはしなかった。


 なら突然堕ち始めて助けられたのは......


「酷いマッチポンプだろ......!!」


「よいではないか、楽しかっただろう?ホムラよ。」


「お前はな......!!」


 ちゃっかりまだ僕の名前を知らなかったとか宣って、落下中に自己紹介させられた身にもなって欲しい。

 何が、「名も知らぬ小童を助ける道理はない」だ......!!


「許さん......!」


「すまんすまん、そう言うな。

 つい、悪戯心が抑えられなんだ。」


 このチビ......!!


「詫びといってはなんだがな、いいことを教えてやろう。」


「いいこと......?」


 胡乱な目を向ける僕に、ラースは尤もらしい顔で講釈を垂れ始めた。


「先ず、安全性の問題だな。

 見届ける間支えておったせいで、流石の我とて少し休まねばならなくなっての。

 仕方なしに堕ちている間回復に専念することで、お主を万全の体制で受け止めたというわけだ。

 どうだ、現に落下中も保護はしておったし、怪我などひとつもあるまい?」


「ふむ......それで?」


「うむ。次に、機密性の問題だな。

 ゆったりゆったり堕ちていれば、多くのものに目撃されかねん。

 まだこの国がどんな場所か分からぬ故、少しでも早く降りた方が良かったのではないか?」


「ふぅん......。」


 ......まぁ、筋は通っていそうだ。


「まぁ、我の趣味が一番だが。」


「コイツ!!」


 とそんな言い合いをしていると、ふと人の気配がした。

 大騒ぎしていたこちらが気付いたのだ、気付かれていると思った方がいいだろう。


「誰か居ないかー?聞こえたら返事をしてくれー!」


 ラース、聴いてるか?


「うむ。」


 どーするバレてるっぽいぞ。こっちへ向かって来てる。


「私はバルク=ドラゴフレイム!

 国立王都護竜騎士ドラゴンナイト養成学園の長を任されている者だ!

 ドラゴンらしき影と人が森に堕ちていったと聞いて助けに来た!」


 む?「む?」


 これは......うーむ?


「さっき天から見下ろした限り、この近くに城とその周りに大きな街があったのは事実だな。」


 他に行くところもないし、話だけでも聞いてみるかな?


「それがよかろ。我らは何も知らぬ故な。

 せめて友好的な者から聞くべきだろう。」


 ......よし。


「此処に居るぞ〜!」


「そっちだな!怪我はないか!今行くぞ!!」



 それから直ぐに、その男は現れた。

 大柄で、僕よりはやや明るい赤の髪。

 そして側頭部からは太く短い二本の紅い角が。


「やぁ、本当に無事だったのか!

 初めまして、私は、バルク=ドラゴフレイム。」


「初めまして、僕はホムラです。

 そしてこいつが......」


「我はラースだ。」


「これは......やはり。

 ラース殿、失礼ながら、属性をお聞きしても?

 まさか、尋常なドラゴンでは御座いますまい。」


「ふむ。......ホムラも聞いておけ。

 我は天と地を司る......「天地の相克龍」だ。

 気付いてはおろうがな。」


「そうか。......まぁ、なんとなく。」

「なんと......ラー、ス............様は伝説の“天地の相克”にあらせられますか!


「そして、言うまでもないが此奴ホムラは火龍の龍人よ。

 少々特異ではありそうだが......む、聞いておるか?」


「......は、ハッ!えぇ、承知致しまして御座います......!

 私も火竜の血を継ぐ末席なれば。

 ......しかし、火龍の龍人でしたか。道理で特徴が髪色にしか出ていない。

 抑えているのですね?」


 ここまでで解ったのは、ざっと三つ。

 一つ、ラースは天地の相克竜。

 二つ、自称偉そうな立場のこのバルクさんが

 三つ、その立場や態度からするに、竜やその類は迫害どころか尊敬、崇拝されているらしい。特に、ラースが天地の相克と知ってからは態度が顕著だ。


「えぇ、まぁ......。」


 それらを鑑みて、言うか迷った末に、結局口にした。


「............半混血ハーフ、なので......。

 あ、あと。僕に敬語は辞めて下さい、落ち着かないので。」


「それは......いや、一先ずは分かった。

 それに、ハーフか......。君は、立派だな。

 他にもまだ聞きたいことはあるが、一先ずは......そうですね。

 もし、特に行く宛が無ければ......狭い所ですが、我が家にご案内したく。

 偉大なる「天地の相克」よ。」


「我は構わん。贅沢を言える身でもなかろ。」


「出来る限りのおもてなしを致しまする......。


 それで、今夜は我が家に来ないか、「龍の堕馨仔おとしご」よ。」



 龍の、おとしご......?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る