第五話:武装竜機、起動
扉の奥の暗がりに、無骨な、大きな影が見える。
「あった。これに乗ろう。
これで......僕達は自由だ。」
「これは......。」
僕が急いで明かりを付ければ、影は色を取り戻し、僕らの目の前にその姿を晒した。
それは、元は生物だったのであろう、有機的なフォルムと、人の手が加わった事が一目で見て取れる、機械的なパーツで構成されている、全高約約五メートル、全長約十五メートルの竜だった。
獰猛さを感じさせるシャープなシルエットは、鋭い爪牙を備え、腕の代わりに細くも決して華奢ではない翼を持ち、逞しい尾を地に垂らしていた。
然しその全身は、普通の竜では有り得ない漆黒に染まり切っていた。
各部位にはより凶暴さを増す刺々しい改造が見て取れる。
何より微動だにせずに立ち尽くすその姿は、凡そ生物ではあり得なかった。
攻撃的な様のその機体の銘は「
「同時に......僕の、罪の証でもあるんだ。」
漆黒に染まったその身は、夜戦を。鋭い改造は、速やかな暗殺を想定されている。
この「ワイバーン」は、全ての
夜、命じられるがままに僕は暗い夜天を駆り、多くの竜を屠ってきた。
殺したくない、と叫ぶ自分の心を殺し、努めて無感動に竜を駆逐した。
そのせいか、ここ暫くの「竜伐の儀」は僕一人に任されていた。
それが最も効率的で、安全で、合理的だった......らしい。
「もう何体の竜を討ったか分からないけれど。
この漆黒は「返り血」だ。
この形状は「諸刃の剣」だ。
だからこの竜モドキは、「僕の罪」だ......。」
「そうか。
お主......やはりお主は、優しいのだな。
供養といってはなんだが、この役目が終われば、我が直々に此奴を眠らせてやろう。」
この時のラースは、どこか威厳に溢れていた。
だからだろうか、僕は素直に頭を下げていた。
「......ありがとう。頼む。」
「よいよい。では行こう。」
一人乗りの〈ワイバーン〉ではあったが、腹の操縦席はラースを入れても広さには余裕があった。
「よし、追っ手が来る前に突破する!」
この機竜庫は天井の無い吹き抜けになっていて、僕らはいつも、真上に飛び上がって出撃する。
「流石にもう脱走はバレてるだろう。少し飛ばすよ。
夜闇に紛れてしまえば僕らの勝ちだ!」
そう言いながら僕は、いつものように、いつもとは真逆の目的で、〈ワイバーン〉と共に羽ばたいた。
「西へ!!」
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