第四話:心のままに、

 ..................ウンザリなんだ。




「ふむ。」


 長ったらしい話は、途中から愚痴になっていた。

 その全てを黙って聞いていたラースは、一言そう言った。

 そして、


「要するにお主はバカなのだな。」


 とも言った。


「......は?」


 これは困惑かの。

 はっきりと言わねば分からぬか......


「いや、バカとも少し違うか。

 お主が何をそんなにうじうじと悩んでおるのか......我にはさっぱりだ。」


「............は?」


 おや、怒らせてしまったか。


「落ち着けい、落ち着けい。

 そも、何故そんなに卑下する。

 何故真っ先に我を殺さなかったのか。


 ......何故、そんなに泣きそうな顔で話すのか。


 まったくバカらしい。」


「............は、はぁ?何、言ってんだ。別に......」


「明白だろうに。

 それに一つ言っておくが、卵の中でも我は意識を保っておったぞ?

「いつの間にか真っ暗闇の中におった」と言っただろう。

 一晩中、お主の寝ボケた独り言はぜーんぶ聴いておったわ。

 戦うのが嫌いなのだろう?何かを傷付けるのは恐いのだろう?

 ......この国が、今の自分が嫌いなのだろう?」



「......っ!!」


 ......ふむ。


「考え過ぎ、だの。それに優しすぎる。

 傷付けぬように傷付き続けたようで。

 傷付けられて尚、守り続けたようで。

 お主は......」


「......何がッ......!!」


「お主は」



「何が分かる!!」

「バカモノだ!!」


 ......それだけは、分かるのぅ......。



「バカモノだよ......。」



 我が父に好かれそうな......

 不器用で、優しい、バカモノだ。


「......っ............」







 分かってたよ。気付きたくなかったから、考えなかった。

 意思も、意味も、理由も、何もかも。


「......っ............」


「お主......西に興味はないか?」


 西......?


「どういう意味だ。」


「いやなに、聞いてみただけ......と思うのか?」


「行くのか。」


「行かねば殺されてしまう故な。」


 ......。


「取引だ。」


「訊いてみるとするかの?」


「越えられるんだな、「地の獄」......境界を」


「カッカッカッ............愚問。」


「行くぞ。今直ぐ抜けなければ機会はない。着いて来い。」


 幸い、序列一位ともなれば“そこそこ”には価値ありとして、ある程度の自由が与えられていた。

 それに加えて、今まで思考停止していたお陰というか、不幸中の幸いで僕は“従順”としてほぼ「ノーマーク」だ。

 脱走しようとする竜人、龍人は少なくないから、ある程度の従順さを見せる機士は後回しにされがちだ。

 まぁ、だからといってノーマークなら警備がザルかといえばそうではなく......


「チッ、無人機竜ドローンだ......」


 曲がり角から覗くまでも無く、駆動音で直ぐに気付いた。


 操縦のある程度の自動化、大幅な小型化に成功した「無人小型武装機竜ドローン」や、「竜/龍」の血に反応する「審査門ゲート」等のセキュリティがそこら中に張り巡らされている。


「ここを迂回しては出口には辿り着けない......そりゃあ抑えるか......」


「ここを抜ければもうすぐ、かの?」


「あぁ。足を確保出来れば、な。」


 ただ、どうやってドローンとゲートを抜けるか......

 それさえどうにかなれば、或いは......


「ならば我に捕まっておくのだ。


「......は?あ、あぁ。これでいいか?」


 ......行くぞ?」


 俺がラースを抱えたその瞬間、世界が......ズレた。


 俺とラースはその場からまったく動いていない。

 ......その、筈だ。

 しかし俺達は、まるで世界の方が動いたかのように、ドローンの死角、ゲートの奥へと辿り着いていた。


「ラース?お前が......?」


「ほれ、行くぞ。」


「あ、おい......。」


 さっさと俺の腕から抜け出し、パタパタと飛び出したラース(生後数時間)。

 とりあえず追及は後にして追いかけた。


 といっても、ラースは少し行ったところで扉を開けられずに待っていたが。


「よし、ここだ。」


「足と言ったか?まさか此処にあるのは......」


「あぁ......まぁ、所謂「モドキ」だ......。」


「道理で死の気配がする......。」


 やっぱマズかったか?


「まぁよい。我は西にさえ行ければな。」


「そうか。じゃぁ少しだけ、勘弁な......!」


 喋りながらもロックを解除して、一息にドアを開けた。

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