第二話:ラース

「「......は?」」


 目の前に、空色の卵の殻を王冠のように戴いた、白銀の小竜が居る。

 全身は見えていないが、所々に紫のラインが入っているようで、小柄な体躯ながらも何処か神々しさを感じさせる。

 火竜、水竜、天竜、地竜のどれにも似ていない、今までに見たことの無いタイプの竜だ。


 そしてその小竜とハモった。


「いやいやいや、なんだお前?竜......?

 なんで俺の布団に居る?!」


 咄嗟に臨戦態勢を取って訊いた。

 すると、


「まぁ待て。我にだって分からんわ。

 いつのまにか真っ暗闇の中に閉じ込められておった......。

 お主も見たであろうよ。

 恐らくだが、お主に卵を突き飛ばされて、丁度今、卵が割れた。

 そしてその中に居たのが、この我よ。

 分かったか?」


 などと偉そうに宣った。


「いや分かるかっ!なんの説明にもなってねぇよ!」


 さんざん叫んで今更だが、明け方に大声なんぞ張り上げまくった日には、何だなんだと騒ぎになるのが目に見えているので落ち着こう。

 それに、見た目だけでなく何もかもが今まで見たどの竜とも違う。

 コイツは話せるようだ。


「とりあえず、お前にも分からないってことは分かった。

 それで?まだ色々ツッコミたいところはあるが......」


 ......一体何からツッコもう?

 冷静になろうとは思うもののまだ混乱している自覚はある。

 先ずは名前?出身?そんなの訊いてコイツ分かんの?


「我は......そうだな、ラースと呼ぶがよい。

 出身は、ご存知その卵だ。

 どの竜もが我のようでは無いぞ?我は例外よ。

 生まれて間もない竜の知能は......そうさな、人で言う十歳児程度だったか。

 人が余りにも変わってなければ、だがな。」


「せいせいせい、待て待て待て待て。ステイ。

 新たなツッコミ所を増やすな、心を読むな、一度に答えるな。

 そして何より匂い過ぎて聞きたくない!(小声絶叫)」


 なんだコイツなんだコイツ......???もちろん例外もいいとこだ。

 こんな色をした竜も、喋る竜も、襲ってこない竜も知らない。

 それに、こんなに......人の俺にすら分かる程に、哀しそうな顔を見せる竜も。


「コイツとは失礼な、我はラース、「守護龍」ラースぞ。

 お察しの通りお主の心の疑問に答えたのだがな。

 別に読みたくて読んだのではない。

 我は人は好かん、出来れば関わりたくもないがダダ漏れなのだ。

 それに、一度に訊くから都度答えたのだろうて。

 聞きたくなければ聞かなければよかろう。」


 おーけいおーけい。せいせいせい......。


「よし、おやすみ。」


「あい、おやすみ。」


 二度寝した。




「ん......っ、んー......。」


 起き上がり、伸びをして、辺りを見る。

 何の変哲もない、僕の部屋。

 家具は最低限で、こういう部屋を一般に殺風景と言うのだろ


「お主や、何故心の声では「僕」なのか?

 ちと気になっておるでの。聞いてもよいか?」


 油断した。頭の上からあの声がした。


 ......まだ「居たのか。」


「心の声が聴こえるからと、わざわざ手の込んだイヤミだな。

 それで、なぜなのだ?」


 ..................かくかくしかじか。


「ふむ。分かった。

 言葉にせずとも何となく解るとは、便利だな。

 では、我の番だ。」


 ......は?


「ここは何処だ?

 人が滅んでからどれ程の時が経った?

 それを、教えてはくれぬか。」


 待て待て待て待て......?

 それは、歴史、ってことか?

 そんなのを知りたいのか?このラースとやらは。


「そうだ。ダメか?」


「いや、構わないが......。

 ここは須佐之国、東西の東の国だ。

 それで......人が滅んだ?なら建国戦争......ではなさそうだな。

 もっと前、龍戦のことか?」


「そうだな、それが最も古いなら、恐らくその龍戦だろう。それで?」


「千年、と言われているが。」


「千年......か。分かった。

 ......この国について、もう少し詳しく聞かせてくれぬか?」

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