#012 リアリティー

 作品を彩る重要なファクターの1つに「リアリティー」がある。今回はそんなリアリティーの話。


 わざわざ説明するまでもない話だが、小説でも漫画でも、実際には不可能な演出的表現がある。驚いた拍子に目が飛び出すとか、殴られた拍子に歯が抜けたけど後のコマで無かったことになっているなど。基本的にギャグマンガなどで用いられる表現だが、後者はバトルものではよくもちいられる謎表現だ。


 まぁ流石に歯まで行かなくとも、固い地面に頭から落ちるなどの普通なら即死する様な状況でも、鍛えている(どこをどう鍛えたら脳や頭蓋骨を鍛えられるのか分からないが)というだけで即死を免れてしまう。ある意味"ご都合"なのだが…、「バトルものならこのくらいは許される」みたいな基準が存在しており、ギャグマンガ同様に"漫画的表現"として許されていたり、感覚がなれて不自然なことが気にならなくなっていたりする。


 それ以外にも、申し訳程度の"それらしい"説明をされると、全く根拠や理屈が合っていないのに「流れで納得してしまう」ってパターンもある。


 例えば、包丁の刃を触っても滑らせないと指は切れない。その理屈は理解できるが…、日本刀で思いっきりブッ叩いて切れないのは理に適っていない。切れにくいと言うだけで包丁でも強く押し当てれば普通に切れるのは小学生でも分かる理論だ。しかし…、作中ではそういうものだとして誰もツッコまない。


 上げた例は極端な作品のパターンだが、他にも探偵もので机の上の状況から利き手があっていない事を悟り、犯人を特定する。ありがちな表現ですが、箸ならともかく、カップなら逆の手で持つ時もあれば、持ち手を利用しない時もある。スマホでもそうですし、容疑者ではなく被害者の方が実は両利きでたまに持ち手を変える可能性だってあったはずです。


 つまり何が言いたいかと言えば、可能性が高いと言うだけで100%の確証のない推理を…、「その場の空気に流されて納得してしまっていませんか?」って事です。それを踏まえて、いつものようにパターン分けしてみましょう。




①、リアリティーを重視していないジャンル的な誇張表現。


 全くリアルではないけど、分かりやすくするための誇張表現なので深く考えないでください。相手の銃弾が全く当たらないのは緊迫感を持たせるための表現なので、深くは考えないでください。ブーメラン系の武器は相手はとれないけど本人はとれる、これはこう言う構造の武器と言う設定なので、深く考えないでください。


 一応、補足しておきますが、この話はそういうご都合が"ダメ"と言っているわけではありません。リアリティーはあくまで作品を彩るファクターの1つであり、それだけで決まるものではありません。とは言え…、新シリーズに入っていきなりモンスターの捕獲方法を主人公が忘れるなどの表現は、子供向けにしたって酷すぎると思いましたが…。




②、リアル重視の作品。


 表現だったり、心理描写だったり。リアルすぎて現実味がなくなったり、作品として泥臭くなりすぎてもリアルを追求する。残念ながら漫画や対象年齢の低いアニメなどでは"足枷"扱いされがちですが…、大変でもやり遂げれば名作になりえます。少なくとも、対象年齢の高い作品だったり、頂点を目指すなら無視していい要素ではないはずです。


 また、それは現実基準のリアリティーに限った話ではありません。もっと単純に、パワーバランスを守るとか、魔法なら魔法で「なんでもあり」にするのではなく「明確なルールを定める」ことなども含まれます。


 ストーリーを面白くするために、安易に能力の縛りを強キャラが無視するのではなく、ちゃんとルールは守った上で強い。あるいは能力の縛りに苦悩しながらも勝利する。それでもいいはずです。リアリティーは必須ではないからと言って、雑に扱い、ご都合に安易に逃げる。それで本当にいいのでしょうか?




③、リアルではないが、リアリティーはある。


 うまくその場の雰囲気を作って、リアルでは無いものをリアルだと思わせる表現。前に料理もののアニメで甲乙つけがたい料理(カレー)のジャッジに"飲んだ水の量"で勝敗を決めたというものがありました。普通に考えれば辛い料理なのに「水を飲んだから減点」なんて横暴もいいところですが…、その場の雰囲気や審査員の解説を聞くと"いつのまにか"納得してしまっている。そう言った表現です。


 もちろん、中には解説を聞いても全く理解できないものもあります。逆にそれが代名詞として売れたりすることもあります。無茶苦茶な理論を強引に納得させるために解説を加える。「その時、現場を目撃していた警備員は後にこう語る…」突然、戦闘中に無関係なギャラリーの回想に入る。解説は意味不明だし、テンポもすこぶる悪い。それでも一周まわって"そう言う作品"として受け入れてしまう。


 あと、本人はリアル(スジが通っている)だと思っているのに実はそうではないパターンもあります。先進技術を取り入れた場合などネットで調べた浅い知識を、さも専門家のようにドヤって作品に取り入れたはいいが、実は根拠のない理論だったり、理論の使い方が間違っていたり、それに必要なエネルギーや効率を計算できていなかったり。


 主人公は気象現象に関する知識がある。加えて常人の数百倍の魔力がある。だから天候操作をおこなえる。


 一見するとリアリティーはありますが、実際に天候を操作するのに必要な魔力量を計算してみると通常の魔法の1億倍以上の魔力が必要になります。つまり、理論はあっているのに計算を怠ったために細部がガバガバになってしまったわけです。別に作者が分かっていて、あえて漫画的な誇張表現を選んだのならいいのですが…、本人に全く自覚が無かったのなら痛々しいミスです。これは理科の知識と計算器と、実際に可能かどうか確かめる癖をつけていれば回避できたミスです。




 くどいようですが、私はリアルを絶対的価値観だとは言っていません。


 この手の話になると「フィクションにマジレスするくらいならアニメ見るの卒業しろ」とか「過去作の方が酷いの多いだろ、お前の意見は最近の若い者はとか言ってる老害と同じなんだよ」みたいな事を言われますが…、そう言った批判こそが横着であり、信者の暴論だと思います。


 作品にはそれぞれ目指すものがあり、様々なファクターが組みあって出来ています。「リアルじゃないからこの作品は面白くない」そんなバカげた極論は言っていません。


 私は好きな作品でも、ダメなところはダメだとハッキリ言いますし、嫌いな作品にも良いところがあり、学ぶべきものがあると思っています。「批判していた癖になんでお前自身が擬音表現を使っているんだよ!」って怒られても、私は擬音表現も表現の1つとして認めており、そのことを後書きで確り言ってきたはずなのに…、全く理解されずに感想で叩かれる。


 私の作品で悪役として出てきた身勝手な正義を振りかざす組織と同じノリで、自分目線の身勝手な意見を感想に吐き捨てていく。


 もちろん全ての読者がそうだとは思いませんが…、私が作品を通して伝えてきたものが、全く伝わっていなかった読者が予想以上に多かった。本当に悲しいことです。




 最後、完全に愚痴になってしまいましたが…、私は「創作活動は漠然と思った事を書くだけではダメだ」と考えています。リアル志向にしろ、ノリ重視にしろ、自分の作品傾向を理解した上で形にしていかないと…、スランプに苦しんだり、傲りや思い込みに足元をすくわれる事があります。読む側も、漠然とノド越しだけで作品を楽しむのもいいですが、論理的に作品を分析してみるのも楽しみ方の1つです。


 長くなってしまいましたが、今回はここまでと言うことで。最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

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