未来を殺す選択肢

    オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前三時四〇分

 自分の夢を諦めてまでトーマスの部屋へやってきたマーガレットだが、彼女の説得でも香澄の心を動かすことは出来なかった。むしろ必要以上に香澄の心を刺激してしまったようだが、不幸中の幸いか、ここにきてやっと彼女が今まで隠し通してきた心の本音が見えてきた。

 一方先ほどまで香澄と話をしていたフローラも、マーガレットが来たことを踏まえて説得役を彼女に譲ったようだ。それはフローラの側で香澄を見守る、ジェニファー・エリノア・ケビンも同意見だった。

『頭の良いフローラと違って、マギーは自分の気持ちをストレートに言ってしまうタイプだから、本当に香澄を説得出来るのか少し不安だわ……』


 そんなジェニファーの不安をよそに、マーガレットによる香澄への説得はその後も続いている。今後もマーガレットは香澄を優しく説得するかに思えたが、彼女からは予想外の答えが返ってきた。

「そんなこと私には分からないわ! “何か困ったことがあったら、一人で悩まずみんなに相談して”ってこれまで何度も言ってきたのに……香澄がずっとに閉じこもってばかりいるから、こんなことになったんでしょう!? それを指摘されたから凶器を使ってみんなを脅すなんて……そんなことのどこに意味があるっていうのよ!?」


 マーガレットもこれまで明るく香澄と接していたが、彼女が自分の非を一向に認めないことに腹を立てたのだろう。あえて氷のように接するフローラとは異なり、マーガレットはあくまでも本音で香澄と語り合っている。今まで気持ちを抑えていたマーガレットも、まるで舞台や劇場でお芝居をするかのような声量で香澄を圧倒している。


 自分の気持ちや感情を爆発させるかのような、香澄とマーガレットの二人の言い争いはその後も続いている――お互いに信頼し合っている二人だからこそ、その光景がとても印象的だった。

「う、うるさいわね! わ、私はのためにも、こうするしかないって思っているだけよ」

「これが香澄のため? 馬鹿なこと言わないで! こんなことをしてあなたの心が癒されるって、本気で思っているの!? 凶器を使って強引に香澄の気持ちを伝えたって……みんなの気持ちが一つになるどころか、逆に遠ざかっていくのよ!? その結果あなたの心は癒されるどころか、むしろだけじゃない!? そして過去に囚われるだけでなく……香澄自身のつもりなの?」


 香澄が自分の感情を爆発させているのと同じように、マーガレットもまた今まで胸に秘めていた想いをぶつけている。普段は何かと香澄に説得されることが多いマーガレットだが、この時ばかりは立場が完全に逆転しているように見える。 

「いい? あなたみたいに暴力で無理矢理相手を納得させたって、誰も幸せになんかなれないわ! のよ! この中で誰よりも優しい香澄がどうして……どうしてそんな簡単なことが分からないの!?」

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