対立する親友たち

    オレゴン州 トーマスの部屋 二〇一五年八月二五日 午前三時三〇分

 フローラとは少し異なる方法ではあるが、マーガレットもまた香澄との距離を縮めていく。やはりフローラの考察通り、頭の良い香澄が相手ではジェニファー・エリノア・ケビンたちのような正攻法による説得では、得られる効果が薄いようだ。その証拠に今まで香澄がフローラへ向けていた銃口も、いつの間にか地面へ下ろしている。


 マーガレットとフローラの二人による説得で大きな変化は見られたもの、それでも最終的に香澄を思いとどまらせるまでには届かなかった。しかしまったく効果がなかったわけでもなく、苛立ちのためか香澄の口数が今まで以上に多くなっている。普段の香澄は物静かな性格であるが故に、その異様な光景がこの状況の不自然さを一層際立てている。

「最後にメグとお話が出来て、本当に良かったと思っているわ。そしてメグ……私にはまだやらなければいけないことがあるのよ。だから……お願い、そこをどいて」

「もし私が“嫌よ”と言ってここを動かなかったら、香澄はどうするの? さっきまでフローラにしていたように、あなたは私にも……いえ、みんなにその銃口を向けるつもりなの? 病気になるほどつらい気持ちだったことには同情するけど……こんなことをしてもわよ!」

 

 自分にはやり遂げることがあると信じている香澄に対して、彼女からの提案に答えるかのように、頑なに首を横に振るマーガレット。ここで再び銃口がフローラからマーガレットへ突きつけるかと一同は思っていたが、なぜか香澄の手が動く気配は見えない。今まで香澄の心の中で炎のように燃え上がっていた憎悪や憎しみといった感情が、少しずつ無くなりかけているのだろうか?


……ですって!? そんな陳腐ちんぷな一言で片付けないでよ! 大体メグなんかに、私の何が分かるって言うのよ!? 私が今までどういう気持ちで過ごしてきたか……あなたに何が分かるって言うの!?」


 マーガレットに反論されたことがしゃくさわったのか、これまで穏やかに戻りつつあった香澄も怒りの感情をあらわにする。そして香澄が言い放ったその言葉は、これまで彼女が胸の内にしまい込んだ心の声でもあった。

 同時にかつてないほど声を荒げる香澄――普段は自分の言いたいことが言えない性格なだけに、常日頃抑え込んでいた感情が爆発してしまったのかもしれない。

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