不安がよぎるジェニファーの気持ち
ワシントン州 スイーツ店内 二〇一五年七月三〇日 午後四時〇〇分
香澄がケーキの半分・ジェニファーが三分の二を食べ終えたころに、二人はマーガレットのことを話題にしていた。……彼女たち一体、どんな話をしているのだろうか?
「そういえば香澄、知っています? マギーが所属するベナロヤ劇団で、今度配役を決めるためのオーディションを行うみたいですよ」
「えぇ。そのことなら私もメグ本人から聞いているわ。確か“八月の中旬から下旬に行う予定”って言っていたから、今ごろその準備でもしているのではないかしら?」
「……すごいな、マギー。マギーって何でも前向きに行動するタイプだから、女優というお仕事が向いているのかもしれませんね」
「そうね、メグの行動力や向上心の強さは誰にも負けないと思うわ。……私もあの子を見習わないといけないわね」
ほんの少し前にシアトルへ戻ってきたばかりのマーガレットだが、それにはもう一つの理由があった。フランスで行う予定のお芝居が中止になったことで、劇団側の都合で急遽配役を決める臨時オーディションが主催される。
だがマーガレットがオーディションを受けることを知る香澄とジェニファーだが、彼女がどんなお芝居を演じるのかまでは知らない。それはオーディションを受けるマーガレットも同じようで、当の本人も詳しいことは知らされていない模様。
実はこれもベナロヤ劇団による
夢に向かって大きく歩み出すマーガレットを、心から祝福している香澄とジェニファー。そんなマーガレットの話で盛り上がりつつも、どこか元気がない素振りを見せる香澄。
香澄がどこか無理をしているように感じたジェニファーの心は、どこか苦しくなる。ため息が多い・元気がないなど表面的な変化はないものの、やはりいつもの香澄とどこか様子が異なる。
同時に香澄は自分からあまり話をする性格ではなく、どちらかと言うと相手の話を聞くことが多い聞き役に近いタイプ。無口ではないが普段はあまり口数が多くないため、どちらかというと聞き役に徹することが多い香澄。だが今日の香澄はいつもと様子が異なり、珍しく自分から話題を切り出すことが多かった。
そんな香澄が自分にとって不慣れな行動に出たためか、彼女の優しさを知りながらもどこか悲しくなってしまうジェニファー。
『いつもはもっと静かにティータイムを満喫することが多いのに、今日の香澄は何だかすごく無理をしている気がする。……大丈夫かな?』
マーガレットやハリソン夫妻らと同じくらい、香澄のことを気遣っているジェニファー。だがジェニファーも内向的な性格であるため、自分が今思っている気持ちをそのまま香澄へ伝えることが出来ない。そんな自分の性格を知りながらも、一人歯がゆい気持ちを感じるジェニファー。
甘く心地良い香澄の優しさに浸りながらも、密かに彼女へ励ましの声を呼び掛けるジェニファー。しかしその優しさはバラの花にどこか似ており、人を惹きつける魅力を持ちつつも、どこか人を遠ざける不思議な香りがする香澄。
『何だか最近私の知っている香澄が、どこか遠くへ行ってしまう気がするわ。私の思い過ごしなら良いのだけど……』
はたして香澄はこの先、美しいバラの花びらを咲かせることが出来るのか? そしてジェニファーは無事バラが花開く瞬間を、しっかりと見届けることが出来るのだろうか?
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