フランス語に堪能なソフィー

      フランス パリ リヨン駅 二〇一一年七月二九日 午後二時三〇分

 その後エリノアはリースたちへ、“この後回る観光ルートはどちらにしますか?”と尋ねる。するとリースは少し考えこみながらも、

「僕らはパリのこと詳しく知らないから、今日の観光ルートはエリーに任せるよ。仮にさっき僕らが伝えた観光名所以外におすすめの場所があるなら、そっちでも構わないよ。それと電車代や入場料などはすべて僕とソフィーが負担するから、お金のことは心配しなくていいからね」

すべてはエリノアの判断にゆだねることになった。


 その言葉を聞いて安心したのか、若干肩に力が入っていたエリノアの心も急に軽くなる。

「そうですか? でしたら今回はコンコルド広場と凱旋門を観光する、というのはどうですか!?」

「うん、僕らはそれで構わないよ」

「ねぇ、パパ、ママ。早く行こうよ!」

「そんなに慌てないの、トム。……迷子にならないように、気を付けるのよ」

「分かっているよ。観光中は僕、ずっとママの手を握っているから」

 先ほどまでのたどたどしい雰囲気とはうって代わり、常に陽気で明るい笑顔を絶やさないサンフィールド親子。そしてそんな彼らの雰囲気に合わせるかのように、その場の雰囲気を楽しんでいるエリノア。


 なおリヨン駅から最初の目的地のコンコルド広場まで、徒歩だと約一時間ほどかかる。だがまだ午後の二時三〇分ということもあり、エリノアはトーマスたちと一緒にパリの街並みを満喫している。

 するとエリノアに出会った記念ということで、リースがリヨン駅前で記念撮影をしようと言い出す。エリノアもまんざらではなかったようで、臨機応変に対応する。


 だが四人全員が被写体として写るためには、パリの街を歩く誰かにシャッターを押してもらう必要がある。とっさにエリノアが通行人へ撮影をお願いしようと思った矢先に、

「みんな、ちょっと待ってね。私、パリの人へお願いしてくるわ」

とソフィーが言いながら彼女はその場を後にする。

 ソフィーがパリの通行人へお願いすると言ったものの、エリノアにはある懸念が残る。

『ソフィー、大丈夫かしら? “僕が話しかけてもパリの人は答えてくれなかった”って、さっきリースが言っていたけど……」


 そんなエリノアの不安を払拭ふっしょくするかのように、数分後にソフィーは街を歩く三名のパリジェンヌを連れてきた。同時にデジタルカメラの操作方法を簡単に説明し、

「さぁ、みんな。準備はいい?」

記念撮影のためのポーズを取るように皆へ伝える。全員がポーズを取ると同時に、“パシャリ”というカメラのシャッター音が鳴る。

 そしてソフィーが自分たちがしっかりと写っていることを確認し、写真を撮ってくれた彼女たちへ流暢なフランス語でお礼を述べる。


 それから数分後、何事もなかったかのようにソフィーはエリノアたちの所へ戻ってきた。そしてソフィーは夫のリースと世間話に弾んでいるが、その手際の良さに驚きを隠せないエリノア。

 どこか不思議そうな顔をしているエリノアを見たトーマスは、

「エリー。僕のママはね、アメリカで通訳のお仕事をしているんだよ。だから英語だけじゃなくて、フランス語と日本語も話せるんだよ。すごいでしょう!?」

ソフィーの手際の良さについて説明してくれた。

 しかしトーマスからその話を聞いたエリノアはさらに驚いてしまい、

「……はぁ、人はみかけによらないわね」

とため息ながらに一人言葉をつぶやく。

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