サンフィールド家との出会い
フランス パリ リヨン駅 二〇一一年七月二九日 午後二時二〇分
パリの地理をしっかりと把握していない彼らにとって、助け舟を出してくれたエリノアの提案は地獄に仏のようなもの。最初は少し戸惑いを見せていたが、すぐにエリノアの申し出を受けることにした。
「それじゃお言葉に甘えて、お嬢さんにパリ観光をお願いするわ。本当にありがとう!」
感謝の気持ちを伝えるという意味を込め、女性は思わずエリノアの手を握ってしまう。いきなりのことで少し驚くものの、エリノアはすぐに笑顔で返す。
数日間とはいえ、家族旅行に来ている人達と一時的に行動を共にすることになったエリノア。そして自己紹介を済ませていなかったことを思い出した男性は、エリノアに改めて挨拶する。
「……そういえば自己紹介がまだだったね、これは失礼。それでは僕からだね――僕はリース・サンフィールド。そしてこちらの女性が僕の妻のソフィー。それでソフィーと手を繋いでいるのが、僕らの一人息子のトーマスだよ」
「ご、ご丁寧にどうも。私はエリノア・ベルテーヌです。みんなからは“エリー”って呼ばれているので、みなさんもそう呼んでください!」
「エリー……可愛い名前ね。私はソフィーよ。よろしくね、エリー。……ほら、トム。あなたも黙っていないで、“こんにちは”ってご挨拶なさい」
ソフィーが“トム”と呼ぶ少年が彼女の手からそっと離れ、どこか照れ隠しを浮かべながらもエリノアの方へゆっくりと歩く。目の前に小さな男の子が来たので、自然と子ども目線になるエリノア。だがその表情はリースとソフィーに比べて固く、初対面のためか若干緊張しているようだ。そこでエリノアはトーマスの警戒心を解くため、自分から先に改めて自己紹介した。
「こんにちは、トム。私はエリーよ。数日間という短い間だけど……よろしくね」
ピンク色の瑞々しい唇をそっと開け歯並びの良い白い歯を見せながら、優しくトーマスに微笑むエリノア。
すると最初はどこか緊張した素振りを見せていたトーマスも、少しずつエリノアへの警戒心を解いていく。そして子どもなりにエリノアを信頼出来ると直感したのか、
「え、エリー……こんにちは。僕はトーマス・サンフィールドです。しばらくの間ご迷惑をかけると思うけど、よろしくお願いします」
三人の中で一番丁寧な自己紹介をする。
だが時折照れくさそうにする仕草を見せるトーマス。しかしそんな無邪気で可愛らしいトーマスの仕草を見たエリノアは、すぐにメロメロになってしまう。
「丁寧なご挨拶どうもありがとう、トム。それとフランスやパリのことで何か分からないことがあったら、何でも私に聞いてね」
無意識の内に目の前にいたトーマスの頭を撫でるエリノア。だがすぐにはっと我に返り、
「……あっ、ごめんなさい。私ったらつい……」
トーマスならびにリースとソフィーに謝る。だがリースとソフィーはそんなこと気にしていないようで、
「いえ、気にしないで。トムもエリーのこと……好きみたいだから」
優しくエリノアをフォローしてくれた。それを聞いて安心したエリノアは、思わず胸をほっと撫で下ろす。
そして“ありがとうございます”と言いながらも、トーマスの白い肌と顔を見つめながらどこか照れ笑いを浮かべている。
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