夏乃の涙

 しばらくして、夏乃は目を覚ました。彼女は、変わり果てた姿の私たちを見て驚いた。


「み、深青・・・涼果も・・・」


 青ざめた顔で夏乃は再び崩れ落ちた。


「気にしないで。ね。あなたはあんなことをするような子じゃないってこと、わかってるよ。」

「涼果・・・でも、許されないことしたんだよ。私。何度謝っても。」

「いいの。明らかにいつものあなたと違ったんだもの。すぐわかったわ。」


 涼果は夏乃を庇った。夏乃の眼は、これまで見たことないほどの涙で覆われていた。私は、何も言わず、夏乃をぎゅっと抱きしめた。涼果もそれに覆いかぶさるようにして強く抱きしめた。三人とも、眼には涙を浮かべていた。まさか、こんなことになるなんて。誰もが、信じられなかった。特に、一番信じられないのは夏乃だろう。もしかして、誰かに変な薬を飲まされたのかもしれない。別の身体的な、精神的な原因かもしれない。いろんなことが彼女の頭を巡っている。それを少しでもケアしてやることが出来たら。私は考えた。夏乃は明らかに憔悴していた。


「私、死んでも許されないよね。本当にごめんなさい。」

「夏乃は親友じゃない。もし何かあったら、私も一緒だよ。」

「深青・・・」


 私も、涼果も、自習室のことなどすっかり忘れてしまっていた。そのくらい、夏乃の暴走は衝撃的な出来事だったのだ。


「ほら、服乾かそうよ。このままじゃ帰れないよ。」

「夏乃も、ね。」

「深青、涼果。ありがとう。」


 私たちは窓際に立ち、風で濡れた服を乾かそうと奮闘した。


「生ぬるい。」

「夏だから仕方ないよ。」

「それにしても、すごい濡れ方だね。」

「ねー。」

「ゲリラ豪雨に遭いました、的な?」

「ふふふ。」

「びっくりしたよ。夏乃には。またアイスキャンデー食べようね。今度はみんなで。」

「アイスキャンデーはもういいや。」

「そっか。」


 私は中庭に咲いた向日葵の花をぼーっと見つめていた。この花も、また散ってしまうのかな。そう思うと、少し切なくなってしまう。もうすぐ高校を卒業してしまうけど、まだ恋すらもしたことない。今も山石くんに片想いはしてるけど、もう叶わないだろう。


「みーお。何しおらしい顔してるの?」

「かーの。えっ、全然そうじゃないってば。」

「深青、顔に出てるよ。」

「すーずか。恥ずかしい。」


 いつもの癖。私はすぐに思ってることが人にバレてしまう。こうして、トイレにずっといるのも変な感じだな。でも、服が乾くまで我慢しなきゃ。私はため息をつきながら、サイダー味の飴を口に入れた。

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