第27話

「誰か動機に心当たりある人?」


「ないのです」


「ないよ」


「……いや、よく考えたらあるんじゃないか?」


「それって何?」


「いや……わからないけど」


 黙っていた早水が口を挟んだ。


「もしかして、商売上の動機ですか? 私の生家である早水機械工業とあなたの会社は競合関係にありましたよね。その辺の何かとか」


「あなた良いこと言うわね」


 実村がホッとしたように声を上げるが、


「いや、変だろ。もう早水の会社つぶれかけてるし、元々そんな大きな会社だったわけでもないんだろ? まあ過程で何かあったのかも知れないけどさ、それをいまになっていちゃもん付けるとか、完全に小物キャラじゃん。あ——小物でいいなら小物でいいけどさ。それでいいか?」


「小物じゃないわよ!」


「だよな。じゃあやっぱ動機なくない?」


「いや、だからその、ほら。あなた達の作戦が成功して早水の会社が再興されると困るとか」


「その作戦、お前は知らないはずだよ」


「まあそうだけど、ってそんなのどうでもいいのよ! さっさと辞退しなさい!」

「そんな無茶苦茶な」


 ——わかったのです!


 熒はずっと考えるように頭を捻っていたが、急に閃いたように声を上げた。


「私達はこれが初めての出会いではないのです!」


「…………」


「どこかで会ったことがあると思っていたのですけど——。確か三年前の予選大会で戦ったことがあるのです」


「なるほど」


 実村が聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。


「そうだっけ? 覚えてないな」


 磐座は首を傾げる。


「予選の——確か一回戦なのです。何というか——普通に勝ったのです」


「何も見せ場なくってことですか」


「有りていに言えば、そうなのです」


 ——くっ、と噛みしめるような声がした。


「あと、長野さんも確か一回だけ戦ってたと思うのです」


「え、どういうことよ」


 突然、話を振られた長野は動転しておかしな口調で答えた。


「多分、何か因縁があるのです!」


「覚えてないわ――」


「それだけ悪い思い出だったのですね……」


 彼女は同情するように瞳を潤ませた。


「そのリベンジ——ということなのですか?」


 熒は大きな目で実村を覗き込むように見た。実村は熒の顔を睨みつけるように見返し、突然右手を振るって熒の顔を叩いた。


「知らないわよ、そんな話!」


「お前何するんだ!」


 磐座は実村の前に割って入り、腕をギュッと掴んだ。熒は何が起こったのかわからないように呆然と実村の方を見ている。


 実村はしばらく息を荒げていたが


「違うわ」


 と小さな声で返した。


「もう外に出してくれ。お前なんかに構っていられない」


 磐座は憤りを必死に隠すようにしながら言った。


 実村は黙って首を横に振る。


「私と戦いなさい」


「なんだって?」


「戦って勝てたら予選に出してあげる」


「そんな権限が」


「戦いなさい!」


 食い下がろうとする磐座の裾を熒が掴んだ。


「やるしかないのです」

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