第26話
***
——何もしてないんだから、そろそろ出してもらえても良いはずなんだけどな。
そう思いながら退屈な時間を過ごしていると、カツカツと廊下を歩く音が聞こえ、部屋の前で止まった。
「四番さん」
磐座のことだった。そら見たことかと、期待して治安官の後ろをついていくと、そのまま護送車に乗せられ、どことも知れない建物に連れて行かれた。広大で煌びやかな屋敷だった。
大きな扉を開くと、大理石の床が全面に布かれた玄関、正面は全体が硝子張りになっていてここからでもわかるほどに広い庭が見え、ぽつぽつと何らかの規則性にそっているらしい動物だかなんだかわからないオブジェが鎮座している。
磐座は何となく嫌悪感を覚えたが、それを顔には出さずに治安官の後ろで行儀良く立っていた。少しして、いかにも執事といった風体の男がやって来て、磐座を部屋へと案内した。治安官はこれで役目を終えたとばかりに、執事のほうに軽く会釈をして去っていた。
部屋の中には見知った顔がいた。
「おお、お前らきてたのか」
早水、佐藤、長野の三人と、銃で倒れたはずの熒がそこにいた。
「熒! 無事だったのか!」
「無事だったのです! 銃声がしたときはどうなることかと思ったのです!」
熒は無邪気に笑って磐座に抱きついてきた。
その時、磐座は視界の隅で苦い顔をして目を逸らす長野の姿が見えたが、特に気にも留めなかった。
「それより、私達どうなったんだ? 解放されたのか?」
そう誰とはなしに問うと、
「まだ解放してないわ!」
と聞き覚えのない声が部屋一杯に響いた。
声の主を探ると、扉の側にいかにも気の強いお嬢様といった身なりの少女が立っていた。磐座はそのとき直感した。恐らく彼女が今回の宿敵になるであろうということを。
「お前誰だよ」
磐座は無作法に問う。
「あら、私の名前を知らない人間がこの租界内にいたなんてね」
「知らないよ。私ら世間には
挑発するように手を広げると、相手は少しムッとしたような表情を浮かべた。
「あなた、
代わりに早水が答えた。——名前は聞いたことがある。租界内を牛耳っている大企業「デウスエクスマキネ」の経営者の一人娘だ。租界内では圧倒的な権勢を誇り、最近は若いながらも政界に進出してその力を背景に早くも議会の副議長のポジションを確保していると聞いている。その片手間でスターギアの大会にも出場しており、全国レベルの実力を持っている。
——いわゆるいけ好かないヤツ。
磐座は心の中でつばを吐いた。
実村は知っていて当然とばかりの態度で、早水の問いには答えなかった。
「あなた達、私と話せるなんてとても光栄なことなのよ? もう少し感動したらどうなのかしら」
「そんなことよりさ。なんで連れて来られたか聞きたいんだけど?」
「
「じゃあ話すことなんてないから出してくれる?」
「それはできないわ」
それまで黙っていた早水が静かに口を開いた。
「私達は無実だったのではないですか? であれば、拘束される理由は何もないと思いますけど」
「無実かどうかはこれから決めるの」
「わかりませんね。あなたが議員だったとしても、議会にそんなことを決める権限はないはずですが」
「若いわね。三権分立なんてフィクション、まだ信じてるのね」
「同い年ですよね? いずれにしても、出してもらってもいいですよね。特に用がないのであればこの時間に意味はありませんので」
「用はあるわ」
——じゃあ早く言ってくれないかな。磐座は苛立ったように声を上げる。
「あなた達、スターギアの予選大会に出場申請してるわよね? あれ、取り下げなさい」
実村はよく通る声でそういった。
「……なんで?」
「……だってあなた達には
「いや、意味わかんないんだけど。だって私達今回初めて会ったよな? で、私達庶民を見下してると、まあそこまではわかるよ? でも、大会に相応しくないってわざわざ圧力かける動機全くなくね?」
「だってあなた達、治安部隊に捕まったわよね」
「いや、それは誰かが
「それは……」
実村は言葉を詰まらせた。どうも言えない動機があるのか——それとも動機など何もないのかもしれないなと、磐座は思った。
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