第22話
***
早水「……何か途中からホンネ混じってません?」
藍田「あ、失礼」
狩野「だんだん本性がでてるよ」
新谷「で、アキコどうすんの。私もこれちょっとこのままだと無理だとおもうぜ」
秌山「じゃあこの紙を見てもらおうかな」
新谷「何これ」
秌山「野菰がさっきチームから離れてただろ? そのときの行動を書いといたんだ。後付けと言われないように」
新谷「どれどれ、何これ……」
秌山「ゲームマスター以外みたらダメだって。ほら藍田さん」
藍田「これは……」
新谷「いやーでもお前、これ、この後どうすんの」
秌山「まあみんな、合理的な行動を取ってもらえればいいさ」
藍田「合理的な……ねえ」
秌山「プレイヤー以外のキャラクターも時節柄、無視はしないと思うけど」
藍田「…………」
早水「それではよくわからないですけど、この後の話の流れで決まると言うことですかね」
新谷「下手したらゲームオーバーじゃないの」
秌山「さ、それは藍田さんの判断次第だろうね」
藍田「…………それでは再開します」
***
その時、遠くの方からサイレン音が鳴り響き徐々に近付いてきた。租界内の人間には馴染みのあるモノトーンの車、治安維持部隊のパトロールカーだった。車はみるみるうちに二台、三台と集まってくる。そのうちの一つの扉が開き制服姿の男が早歩きで近付いてきた。
「やめろ! 許可無く何をやっている!」
その高圧的な声は間違いなく、熒達の方に向かっていた。熒は青ざめて周りからチラシを引ったくってギアの後ろに隠れた。
男はその姿を認めると、叫びながら駆け足で熒の方に向かっていった。
「ちょっと待ってください。いったいどういう権限で私達の活動を止めようとしてるのですか? 許可は取っているはずですが」
男の前に立ったのは早水だった。
「何を言っている! お前らのような反政府的な活動は許可していない」
「反政府的ってなんだよ」
磐座は口を
男はそれを無視して、早水を押し退けて熒の方に向かおうとする。車からはぞろぞろと同じ服装をした男女が降りてきて集まってきていた。
「わ、私達は何もやってないのです!」
熒はギアの影から震えるような声を上げた。熒の手から一枚の紙がはらりと落ちた。男は目聡くそれを見つけて拾い上げた。
――虐げられた民衆よ立ち上がれ。革命のための最後の戦いを起こそう。
紙にはそう書かれていた。
「なんだこれは!」
「そ、それはさっき拾っただけなのです。警察に届けようと思って」
「内乱陰謀罪だ。ちょっとこっちに来い!」
男は熒の手を強引に掴み上げた。磐座たちも同様に治安維持部隊に周囲を塞がれ、連れ去られようとしていた。
「何もしてないのです!」
「やめろ。やめろって! 誤解だよ」
彼女達は必死に抵抗したが、抗いようのない力の差があった。群衆はしばらく遠巻きに見ていたが、その後の行動は二分された。一方は「自分は無関係だ」というような顔をして騒動から離れようとする人達、そしてもう一方は――少数ではあったが、彼女達の味方たらんとして部隊に近付いてくる人達だった。
「おかしいですよ。彼女達はそんな内乱を起こそうとなんてしてませんでした」
「そうだそうだ! 彼女達の話を聞いてやれ」
彼らの声はそれほど大きくはなかったが、周辺の状況を一層複雑にするのに貢献した。騒ぎは波が伝わるように商店街全体に波及していった。遠巻きに見る野次馬達は時間と共に数を増し、いつの間にか二百人ほどの群衆を集めていた。
抵抗する熒達。
ヒートアップしてくる治安部隊。
怒りの声を上げる群衆。
人々の数と比例してカオスは増していく。
長野は、その様子をジッとカメラに収めていた。彼は混乱していた。何をどう動くべきなのかわからなかった。その結果、彼は何も選択することができなかった。そして、哀れなことにずっと――そのままであろうとした。
レンズは人々の混乱を捉えていた。熒と磐座が暴れる姿。早水はギアの傍に掴まって、首を振っている。佐藤の姿は見えない。彼女は騒動の前にあの場所を離れていたようだった。
騒動は拡大していく。
人々はめまぐるしく動き回る。
磐座が力を振り絞って掴んできた男の手を振り解く。
男は反動でよろめき、熒の方にふらふらと倒れ込んでくる。
熒を囲んでいた輪が瞬時動揺する。
その隙に――熒はダッと走り出す。
小さい身体を生かして取り囲む男達の間隙を縫い、脱出に成功したかと思った刹那。
――パァン!
発砲音がして、熒はぐらりと倒れ込んだ。
長野は――カメラを棄てて熒の方に駈けていった。熒はパタリと力が抜けたように地面に倒れ伏す。どこを撃たれたのか――服の上からではわからなかった。
「しっかりしろ!」
群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。治安部隊は一瞬戸惑ったようだが、すぐに統制を取り戻して熒を囲み、呼吸を確認した後、手早く上着を脱がせた。
血がにじんでいるようには見えない。
「当たっていない」
男達はそう呟いて無線で応援を要請した。
「熒!?」
磐座と早水は声を上げるが、囲まれていて近づく余地がなかった。
熒は、目を開いた。
「大丈夫なのです。ビックリしただけで」
気丈にそう言った。サイレンの音が近付いてくる。救急車両が道路の端に止まり、熒を運び入れた。
「それよりも」
熒は長野にしか聞こえないような小声で言った。
「カメラを忘れないで欲しいのです」
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