第21話

「ところでいいのか? これ持ってきて」


「よくはないと思いますけど――」


 早水が困惑して長野の方を見る。


「一応法令上は重機械みたいな扱いだけど――道路の使用許可とかが無いと多分違反になると思うよ」


「許可は取ってあるのです!」


 熒は自信満々に言う。磐座は呆れたように。


「だったらまあ大丈夫なんじゃないの。こいつ設定的に嘘は言わないから」


「あまり、それ悪用したらダメだよ?」


 佐藤は意味ありげな言葉を吐いて、熒の目をジッと見つめた。熒は大きな瞳で無邪気に見つめ返してニッコリ笑い、


「あと、これも作ってきたのです!」


 そう言って機体の中から大量の紙の束を取り出して地上に降りてくる。


「何々? 私達ベイクドロールズに力を貸してください?」


「なるほどチラシですか」


「片面刷りなのですけど、充分だと思うのです!」


 熒は胸を張って言う。なるほど、確かに口頭で延々とお願いしますと連呼するよりは効果的だろうが――。


「そしてもうひとつの秘密兵器がこれなのです!」


 そう言ってぽんと機体を叩いた。


 確かに――熒の言う通り、既に人々は物珍しげに足を止め、こちらの方を窺うようにしている。


「わーすげえ! ギアだ!」


「へぇ、あまり見たことない型だなあ」


「何かパフォーマンスでもやるのかしら?」


 そんな話し声がそこかしこから聞こえる。


「すみません! 支援お願いします! このギアにチャンスをください! 皆さんの力で私達を戦いの舞台に上げてください!」


 チャンスと見た磐座がより一層声を張り上げてチラシを配り始める。


「お願いします!」


「お願いしまーす」


 いつの間にか早水も積極的に参加して、支援を求め始めている。長野は慌てて彼女たちから遠ざかり、ビデオを回した。


 さっきまで閑散としていた彼女たちの周りには少し遠巻きではあるが人だかりができていて、徐々に支援をしてくれる人も出始めている。中には昔の彼女たちのことを覚えていて大きな声で声援を送るような人も出てきた。


「お願いします!」


 笑顔を作って必死に援助を乞う彼女たちの姿に心を打たれる人もいるようだった。


 しかし――。


 長野は端末を確認する。これまでの五倍のペースでお金が集まってきている。だが――だが、まだ全然足りない。熒の努力はほとんど焼け石に水と言って良かった。


 熒の作戦によると、今撮影しているビデオを動画サイトにアップロードして、全国から支援を募るらしいが、この殆ど波も起伏もない動画が拡散されていくとは考えづらかった。これがもし彼女の最後の手であれば、やはりこの作戦は失敗に終わるとみていいだろう。


 ――何か天佑てんゆうが無い限りは。


 大富豪が現れて支援を申し出たり、大会の主催者が彼女たちの姿を見て出場条件を緩和したり、そういう道端に金塊が落ちているような偶然中の偶然がなければ。


 ――あるわけがない。あってたまるものか。そんないい加減で行き当たりばったりの偶然に頼ったストーリーなんて認められるはずがない。そんなデタラメでストーリーが破壊されるなどあってはならないことだった。彼女たちは正攻法で闘うべきなのだ。ギアマスターに挑み、苦戦の末に彼らを破り、出場権を勝ち取る。それでこのストーリーには価値があるのである。

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