第20話

***

「温かいご支援をお願いしまーす」


「しまーす」


 夕暮れの元町商店街は多くの買い物客で賑わっていた。商店街の象徴であるフェニックスアーチは夕陽に染められキラキラと光を反射している。


 ――不死鳥、フェニックス、か。


 長野はカメラを構えながら、ぼうとそのシンボルを見つめていた。


 かつて西洋に向けて港を開いて発展したこの町は、時代に翻弄された町でもあった。元町を拠点にしていた外国企業が次々に東京へと移転し、大震災、戦災、そしてアメリカ軍の進駐。


 日本の再独立後は客も離れ存亡の危機に直面したものの、若者向けのファッションスタイルの中心地としての地位を確立したことで、まさにフェニックスのように復活した町だった。


 そして今、この町はAIの専制に抵抗する数少ない区域として時代にあらがい続けている。彼女たち、「ベイクドロールズ」が復活するには相応しい場所だった。


「お願いしまーす」


「しまーす」


 再び、磐座と佐藤のよく通る声が響いた。一方で早水は少し離れたところで募金箱を持って恥ずかしそうにしている。熒は――少し用があるといって、どこかに行ってしまった。時折、一人、二人と見知らぬ人が彼女らに声をかけ、いくらかなりの支援をしている。


 ――だが微々たる物だ。


 手元の端末で金額を確認する。ハードカバーの本が数冊買えるかどうか――という程度の金額だった。はっきり言って時間の無駄だと感じていた。


 これで申し込みに足る充分な金額が稼げるはずもない。彼女達もきっとそれは感じているはずだ。いつ諦めて作戦転換するだろうか。


 ギアのチーム編成を考えて――特訓して――ギアマスターに挑む。もう時間はあまり残されていない。


「お願いしまーす」


 ――まだしばらくかかりそうだ。早水の方を見ると、彼女も目を合わせてきて処置のないような顔をしている。


 その時、商店街に似合わない重厚な音を響かせて大通りの方から大きな影が彼女らの方に近付いてきた。二本の足でゆっくりと歩行してきたそれは、やがて不自然に停止し、頭の部分が開いた。


「あー止まっちゃったのです!」


 その影の頭の方から、聞き覚えのある声がした。


「おー熒! どうしたんだそれ?」


「持ってきたのです! こういったことにはインパクトが重要なのです!」


 夕明かりに馴染んだピンク色のその影は熒のスターギアの機体だった。長野と少女たちは慌てて駆け寄り、二メートル五十センチ程度のそれを見上げた。


「そんなことよりバッテリーが切れてしまったのです!」


 長野は頭をかきながらそれに答える。


「歩いただけですぐに切れることはないと思うけど、試合の後ちゃんと充電した?」


「私が見た限りではしてないな。何か格納庫の中途半端なところでほっぽってた。こいついろいろ雑なんだよ、扱いが」


「じゃあ仕方ないね。試合中でもすごい試合が長引くと切れて停止しちゃう機体が出たりするから」


「試合のときに充電忘れで戦闘不能になるのは勘弁してもらいたいですね」


 熒は皮肉に気づいていないような顔で、とりあえず原因がわかって良かったというように笑顔で頷いた。

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