第19話

狩野「藍田さんは、なんで物語を作ってるの?」


藍田「それは――わからないな。気づいたら書いてる」


狩野「プロを目指したりとかしてるの?」


藍田「うん、一応――難しいだろうけど、小説を書いて生活できれば最高だと思ってる」


狩野「ボク、知り合いに小説家がいるんだ。兼業だけど」


藍田「…………」


狩野「…………」


藍田「えと、それで?」


狩野「それで、この前、小説家になる前の作品を見せてもらったんだ。とても彼女らしい作品だったよ。作品から彼女の性格がわかるような、暖かくて優しいストーリーだった」


藍田「うん」


狩野「…………」


藍田「…………」


狩野「うん」


藍田「……どうしたの?」


狩野「やっぱり、住所教えて?」


藍田「え、なんで?」


狩野「何が?」


藍田「いや、話を途中で止めた理由と、住所聞いた理由」


狩野「うーん……前者は今話しても意味ないし、後者はあとで面倒くさいから」


藍田「なんだろう、なんていっていいかわからないけど――」


秌山「あれ、もう戻ってたんだね」


藍田「秌山さん」


秌山「狩野は――なんだ寝てるのか。困った子だな」


藍田「えっ!? ほんとだ、いつの間に」


秌山「藍田さん、ほら、ビール買ってきた。お礼と言ったらなんだけど、良かったら飲んでくれ。……ああ、早水と新谷も帰ってきたようだね」


新谷「あ、いいなビール。私の分も欲しい」


秌山「あるよ。ほら、早水はジンジャエール」


新谷「気が利くなぁ。……はー美味い。よし、英気も養ったところで始めようか。これからどうなるんだ?」


藍田「そうですね。話の中でと思ってたんですけど、じゃあここでまとめますか。えーと、皆さんは予選に出場することに決めました――。しかし無条件で試合に参加できるわけではありません。出場するための条件は三つあり、一つ目は以前の大会で好成績を収めていること。これはもう満たせませんので無視してください。二つ目はスタジアムのギアマスターに認められること」


新谷「スタジアムのギアマスターって最初に私が倒した奴?」


藍田「あれは違います。雑魚です」


早水「あの人、今藍田さんがやってるキャラじゃなかったでしたっけ――」


藍田「あれ――長野も一応設定上は昔の大会で全国に行ってるので実力はあるんですけどね――。まあ個人のレベルだけでは勝てないのがスターギアなので。ギアマスターのチームは全体的にあれよりもレベルが上がっていると考えてください」


新谷「なるほど。それで三つ目は?」


藍田「お金を積むことです。あの東京マラソンみたいな感じで優先枠があります。大会本部もお金に困っているので」


早水「世知辛いですね。いくらぐらいなんですか?」


藍田「ええと、こちらの貨幣価値で百万円ぐらいですね。とりあえず皆さんに出せる感じの金額ではないです」


新谷「一般家庭だとさっとは出せないな。誰か富豪設定のいなかったっけ……咲月は?」


早水「うちはお金に困ってるので無理ですね」


秌山「自分の浮沈がかかったチャンスなんだから出してもおかしくなさそうだが」


藍田「ええと、融資の返済期限がすぐなのでちょっと出せない感じですね」


秌山「うん、あいつら不要なときには押しつけてくるけど、必要なときに出さないからな。道理は通ってる」


藍田「なので、実質的に選択肢は一つだけですね。ギアマスターに認められる」


早水「なるほど。まあそれが妥当でしょうね」


秌山「あ、ちょっと」


藍田「なんですか?」


秌山「ここの世界には警察的なものはいるだろうか?」


藍田「それは当然いますね」


秌山「評判は?」


藍田「良くはないですね。租界内は格差社会になっていて、権力のある者を守るっていう、まあ権力の犬みたいな感じで見られてます。あとだいぶ強権的ですね」


秌山「なるほど、よくある話だ。あともうひとつ、クラウドファンディング的なものを試したいんだができるだろうか」


藍田「え……」


秌山「オンラインで一般の人達から資金を集める方式だけど、多分未来は現代より進んでるんだろうから、世界設定上、何らかの仕組みがあると思うし、できると思う」


藍田「無いことはないんでしょうけど。じゃあ金銭的な条件をクリアして解決を図ろうとするってことですか?」


狩野「そんな質問無視してもいいと思うよ……?」


藍田「……いえ、ですが条件は付けさせてください。10面ダイス2つで05以下が出て、かつアドリブでストーリー的に納得感が出せればOKとします」


新谷「厳しすぎね?」


秌山「いや、実際にやったとしたらこれでも甘い方だよ。藍田さん、ありがとう感謝する。じゃあ振るぞ」

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