第18話

***

藍田「はあ」


新谷「溜め息くなよ……。いや、わかるよ。気持ちはわかる」


早水「いったん休憩しますか」


狩野「賛成賛成」


藍田「そうですね……だいぶ時間も経ちましたし休憩します。二十分後ぐらい目処めどで」


新谷「おけ、じゃあ私ちょっとお手洗い行ってくるわ」


狩野「ボクも」


 こうして、彼女たちは皆それぞれ思い思いに散っていった。藍田はノートPCを開きスクリーンに表示される文字列を頭からなぞっていく。


 物語の前半にちりばめられたすべての伏線が後半にすべて回収されて綺麗に大団円を迎えるシナリオ。ところどころにユーモアが織り交ぜられながらも、全員が一致団結して障壁を乗り越えていく王道ストーリー。


 これこそ藍田が理想としたシナリオだった。


(もう全部がメチャクチャだ)


 本筋は通っている。正しいルートではないが、中盤・終盤のイベントは何とかこなすことができそうだ。だが――


(駄作としか言いようがない)


 藍田は髪をガシガシとかいた。こんなストーリーは彼の望んだ物ではなかった。額を押さえて頭をフル回転させる。


(今までよりも強権的に進めるしかないのか?)


 まっすぐ彼の求める未来に向かって進んでいくストーリー。脇道にそれそうになる彼女らの行動を抑え込んで統制がきくようにする。文句は受け付けない。苦情は聞かない。自分はゲームマスターなのだからこのシナリオでは絶対なはずだ。


 ――迷いがあった。


 それでいいのか? すべてが予定調和で終わる、そんなストーリーでいいのか? 作者がすべてのレールを敷いて登場人物はその上を乗って進んでいくだけというそんな話が面白いと言えるのか?


 藍田は悩んだ。悩んだ末に、彼はスマートフォンに手を伸ばした。プライベートネットワークに入って、SNSを起動し、何も考えずにスクロールしていった。すべての物が無意味な言葉の羅列に感じられた。頭が働かない。自分の作品がどんどんと壊れていく恐怖が彼の頭の大半を占拠していた。――怖い。


 ただ、感情を吐き出したかった。


「自分の作った登場人物が自分の作ったシナリオをどんどん壊していく。彼らの無秩序で無計画な行動に作者はどう対応するべきなんだろうか。もしそれを恐れてすべての行動を作者の考えに従うように締めつけるとしたらそのストーリーは――」


「とても退屈なものになるんだろうね」


 ハッとして後ろを振り向くと、狩野が藍田のスマートフォンを覗き込んでいた。


「ごめん、見えちゃった」


 何か小さい電子音が聞こえて、慌ててスクリーンを見ると、書き込みが送信されていた。藍田は少し狼狽したが特に問題があることは書いてないだろうと判断して、そのまま端末をしまった。

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