第17話
「はぁ? 自分の家のことだからってモロテを上げて賛成してたじゃねえか! モロテって何なのかしらないけど」
「いや、してませんよ。自分の家のことだから関係ない人に迷惑をかけたくないってそう言ってるんです」
「ああ? 迷惑ゥ!?」
磐座は机を強く叩いた。
「迷惑なんかじゃねえっての! 友だちのことだろ? 友だちのことなのに――」
あまりにも反発が予想外だったのか、彼女の紡ぐ言葉はほとんどちゃんとした文章にはなっていなかった。
「私だって全員が全員やりたいって自分の意思で言ってくれるなら反対しませんよ。ありがたく皆さんの協力を受けるでしょう。でも、そうじゃないんじゃないですか? 内心やりたくないと思っているのに流れに
――私はそう感じましたけどね、と言って彼女は珍しく
「お、お前」
磐座が二の句を告げられないでいると、横から男が口を出した。
「いや、みんなで決めたんだから、民主主義の原則にしたがって戦いに参戦すべきじゃないか?」
「ええと、あなた、どちらの立場の方でしたっけ?」
「あ、お前の親として言ってるんだ。なんだその口の聞き方は!」
「お父さんの方でしたか。私が父親から教わった民主主義の原則では例え少数派であったとしてもその権利を熱心に擁護するというものであって、多数決に従って少数派の口を塞ぐと言うことは
「いや、みんな参加したいって言ってたぞ?」
「そうですね。でも、それは彼女が私達の寛容さを信じられなかったからではないんですか。ねえ熒?」
熒はビクリと身体を震わせて恐れるように咲月の方に顔を向けた。
「わ、私なのですか?」
「はい、あなたです。あなた、本当に参加したいんですか?」
「私は――」
大会なんて出たくない。もうあんな舞台に立たされるのは懲り懲りだ。スポットライトを浴びて、声援を受けて、褒められて、人格を肯定されて、努力が認められて、容姿を祭られて――叩かれて――侮辱されて――全てを否定される。
もう――やりたくない。そういう声が喉から出かかっていた。
「私は」
その時、場にそぐわない声が上がった。
「ねえねえ」
佐藤花子はいかにも無邪気な表情でこう問うた。
「この租界ではさ。地区予選があるでしょ? どんな強豪がいるの?」
少し
「そ、それは」
長野は
「この地区は一強だよ。エトワール学院スターギアクラブ。名前の通り、学生だけのクラブだけど、ここ数年はすべての地区大会で優勝している」
「それってどんな学校?」
「いわゆるお嬢様校だね。この地区を
「じゃあ私達のことなんて?」
「存在すら認知してないかもしれないね。何しろそのまま世間に触れないまま資産の運用だけで生きて行けるような人達だから。まあ一部は政治家になってこの租界を運営していくだろうし、一部はそうでなくても何らか営利法人なり公益法人なりのポストに就くはずだ」
「だってさ、熒。じゃあおやすみ」
そういって花子は勝手に部屋のソファに倒れ込んだ。
言われるまでもなく、熒は自分の血液の温度が急激に上がってくるのを感じていた。
「であれば」
熒は熱情に浮かされたまま口を開いた。
「やる意味はあるのです」
熒の見えないところから、はあ、という大きな溜め息が聞こえた。
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