第14話

***

新谷「はい! はい!」


早水「うるさい、何?」


新谷「いくら知り合いだからといって、そんな家庭の事情を私達の前で言い出すのはおかしいと思います。しかも新顔もいるし」


藍田「いや、おかしくないですよ」


早水「まあ――おかしくはないですかね。ギリギリ」


秌山「私も不自然ではないんじゃないかなと思うよ」


新谷「なんでだよ!? わっかんねえ、そんなやついないだろ普通ッ!?」


藍田「早水さんのキャラクターシートを見てもらえますか? そこに理由が書いてあります」


新谷「どれどれ――っていや、それはストーリーの中で明らかになりますっていう方がいいんじゃないの」


狩野「はーい、賛成賛成。読むのダルい」


藍田「狩野さんがダルいの回避する代償に私がダルくなるんですが」


新谷「いやいや、やっとけやっとけ。ストーリーテラーなんだから、まあギリギリ仕事の範囲内。読み上げるだけでいいし」


藍田「私、長野と早水さんのお父さんの二役やってるんですが」


新谷「まあそれは……ウケるよね。実物知ってると」


早水「フィクションですから私は別に。さあ、続けてください」


***


 早水機械工業。どこにでもあるような小さい町工場を1つ持っているだけの会社である。AI全盛の現代ではほとんど忘れ去られたような古い技術を扱っている企業ではあったが、昔、一時期だけ世間から脚光を浴びたことがあった。そしてその脚光を浴びた時期は熒達が時の人になっていた時期とピタリと一致する。


 ――スターギアの黎明期。


 まだ資本の小さな企業でも参入できた時代に早水機械工業は、「スターギアの製造・販売」という世界でも数社しか扱っていない事業を興した。


 「東雲しののめ」と名付けられたその機体は、無骨ではあったが繊細な操縦能力を持ち、パイロットの動きをそのままリアルタイムに機体に反映させるという特徴を備えていた。


 少し身体が傾いただけで転倒することも珍しくないという神経質なほどに敏感な挙動は多くのパイロットから敬遠されたが、反面、自分の腕に自信を持つ極一部の人々からは熱狂的に支持された。


 早水機械工業の名声がピークに達したのは、東雲を操って全国大会に出場した「時の人」、早水咲月らが準々決勝を突破した瞬間だった。


十代の少女らが、次々と年上の大人達を倒していくカタルシス。それも小さな町工場の娘が、自分の家の稼業を助けるために闘うその姿は多くの民衆の感動と――嫉妬を巻き起こした。


 そして、その嫉妬は――彼女らがスターギアを「引退した」理由になった。


 引退と共に、早水機械工業は没落した。実際は資本を持つ多くの大企業がAI制御による扱いやすい機体を提供し始めたことの影響の方が大きいのだが、世間は彼女たちの引退と結びつけて考えた。

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