第13話

 スタジアムから徒歩で30分ほど離れたところにある港のそばの工業地帯。早水の家はその工業地帯の隅にある小さな工場に併設されていた。


「ここが私の家です」


「知ってる」


 磐座は勝手を知っているようにずかずかと中に入って行く。


「で、ここがお前の部屋な。相変わらず殺風景」


 熒はキョロキョロと部屋を見回した。もう何度も足を踏み入れてはいたが――整然とした、面白味のない部屋。とは言い過ぎかもしれないが殺風景という表現は当を得ているように思えた。


「お邪魔します」


 長野は小さく呟いて、敷居をまたいだ。


「で、作戦会議って何やるんだ?」


「えーと、そうだね。まあ簡単にいうとまずは自分達の戦力と敵チームの分析からかな。そこから今後の方針の確定と課題の洗い出し、役割決め、スケジュール決め」


「なーんか退屈そうだなぁ」


「まあ重要なことは重要なことだから」


 そんな話をしていると、突然部屋の戸が無造作に開けられ、お盆を持った中年男性が中に入ってきた。


「誰だ、スパイか?」


「あ、お父さん」


「あー早水の父さんか、知ってる知ってる。私、何回も来たことあるし。お邪魔してます」


 男は少し怪訝な表情をして見せたが、すぐに笑顔になって

「いやーよく来てくれたね。亮月ちゃんも久しぶり」

 と言った。


「はい、お父さんも元気そうで」


「お父さん、私の部屋に入るときはノックしてって言ってるでしょう」


「あー言いそう、こいつ」


「茶化さないでください」


 男はポリポリと恥ずかしそうに頭をかいて、悪い悪いと繰り返し、視線を長野の方に向けた。


「こちらは?」


「長野さんです。私達の監督をやってくれるそうで」


「なるほど……そうですか」


 男はそれを聞くと、何故か表情を曇らせた。


「何かあったのですか?」


 熒は心配そうに下から覗き込んだ。


「やあ熒ちゃん、それに花子ちゃん。ああ、全員いるんだね。じゃあちょうどいいかもしれないな――」


 男は一人で頷いて口をゆっくりと開いた。


「実は――工場を潰すことにしたんだ」

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