第12話

***

 男は形容しがたいような複雑な顔をして頷いた。


「実は――監督をやらせてもらいたくてきたんだ」


 その言葉を聞いた少女たちはこれまた一様に面妖な表情をして見せた。ただ、一人ニコニコと無邪気に笑う熒を除いて。


「やっぱりそうだったのですね!」


「とはいえ――君たちに認めてもらえないのであればどうしようもないだろうけど」


 彼は懇願するような目で熒を除く他の少女たちを見据えた。


「ああ、いいと思うぜ」


「いいんじゃないでしょうか」


「いいよー」


 異口同音に賛同を唱える少女たちを見て、彼は喜びもせずに、大きく溜め息を吐いてみせた。


「じゃあ決まりなのです!」


 熒は一通り喜んでみせたあと彼の手をぎゅっと握った。


「それであなた、名前はなんというのです?」


「長野――長野ながの冬樹ふゆきだよ」


「素敵な名前なのです!」


「そんなことより、君ら大会に出るんだろ? どうすれば大会に出られるか調べた方がいいんじゃないか?」


 長野は憮然ぶぜんとして言い放った。


「なんか――性格変わってないか? まあいいや。でもあれだよな。そもそも私達って大会に出たほうがいいのかな?」


「何言ってるんだ。出るに決まってるだろ!」


「いやいやいや、そこで怒るのどうかと思うぜ、私。まーあれだな。だってさ、大会に出る動機がないもん。動機ないのに出るってのもおかしいし」


「名声を得たいとか、就職に有利になりたいとかあるだろ」


「いやあるんだっけ?」


 新谷は周りを見回した。


「私はそういうのないですね」


「ないのです!」


「私もない」


「ほら、そんな設定ないって」


 長野はガシガシと髪をかきむしって暫く苦悶くもんの表情を浮かべた後――熒の目には彼が小さく口許くちもとを歪めたように見えた。


「わかった。わかったからともかく作戦会議をしよう。それはいいだろ? 監督なんだから」


「なんの作戦? まあ不都合はなさそうだけどな。どこでやるの?」


「広いスペースがあるところがいい。作戦会議だから喫茶店とか周りに人がいるようなところはダメだな」


「カラオケボックスとか? 今、あるんだっけカラオケボックス」


「俺はこの辺のことをよく知っているが、この辺のお店で都合のいいところはない」


「後付け設定っぽいの止めた方が良いと思いますが。――まあじゃあ私の家に来ますか。うち稼業で小さい工場やってるんで、たぶんスペースはあると思いますよ」


 長野は意を得たりというように頷いた。

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