第8話

***


 力強く放り投げられた鉄槌は安定した軌道を描き見事に佐藤の機体の後頭部を直撃した。機体は力なく膝を落として、やがてすべての機能を停止した。



 ……その頃、新谷は再び索敵行動を取っていた。敵影は今のところない。


「花子、花子。どこに行ったんですか?」


 スピーカーから早水の少し慌てたような声が響いた。応答はない。


「これは死にましたね、多分」


「花子はやられたのですか?」


 野菰の幼い声が響く。


「あいつチュートリアルでやられるとかどうなってんだよ」


「チュートリアル? チュートリアルってなんですか?」


「ああ、いや何でもないんだ。それにしてもお前ら一体どこにいるんだ?」


 新谷は話しながら自分の目の前に巨大なディスプレイがあることに気づく。その画面の大部分はカメラが映し出す外の様子を映しているが、その隅に小さく半透明状のグリッドが面積を占めている。その上に白い光の点が何個か。この点の一つ一つは味方の機体の場所を示すことを新谷は知っている。レーダーである。


「なるほど、これを見れば良かったな」


 今、初めて知ったように呟いてレーダーを凝視する。これを見る限り、早水が自分のすぐそばにいるようだ。一つだけ微動だにしない点はきっと佐藤のものだろう。新谷は瞬時に決断し、早水と合流することを伝えると、ドタドタと大きな音を立てて走り出した。


 敵は、あと二体。


***


藍田「では、ここで新谷さんは、ダイス振ってもらえますか。スキルは『警戒』で」


新谷「お? オーケー。振るわ」


藍田「25。警戒の値はいくつですか?」


新谷「えーと、これか30だな。」


藍田「わかりました」


***


 新谷は不意に、自分と違う足音が後ろから聞こえていることに気づいた。身を翻して振り向きざまに剣を振るう。


 剣先は鉄槌を持った相手の腕をかすめ、そのまま虚しく空を斬った。


「雑魚じゃねえな。これは『チュートリアルのボス』か」


 新谷は相手の体勢が整う前に地面を蹴って相手を圧そうとするが、相手は軽快にそれをかわし、背後から新谷を襲う。


「クソッ――!」


 体勢の整わないまま無理矢理に斬り付けようとするが、剣は無情にも壁に引っ掛かり、その直後、新谷は身体にきしむような痛みを覚えた。


 気づくと、敵の鉄槌が脇腹のあたりを打っていた。


「死んだか?」


 ――いや、まだ機体は動いている。新谷は這うようにして敵の追撃を逃れて、間合いを取る。


「なんだこいつ強いぞ」


 剣と槌。射程は剣の方が優位に見えたが、あまり距離を取り過ぎると槌が飛んでくる怖れがあった。


「どうする……」


 自分らしくない。そう頭ではわかっていながら、前にも後ろにも足を進めることができない。

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