第6話

 その通信を聞いていた早水はやみずは、慎重にフィールドを探索していた。佐藤さとうの機体もその横に並んで歩いている。


「……」


「……」


 特に会話もなく、一つ一つの通路をクリアリングしていく。思考も作戦も持たず、ふらふらと歩いているように見えた。


 しばらくすると、見晴らしの良い広場のようなところに出た。先に敵の姿に気づいたのは早水だった。ただ一体。広場の隅の障害物のあたりに潜んでいた。敵を探しているのだろう、頻りに左右を見回しているが、背後からその間の抜けた姿を観察されていることに気づいている様子はまるでなさそうだった。


「そっちには敵がいるので避けましょう」


「うん、わかった」


 早水と佐藤は短距離無線でそう会話すると、広場を後にした。


 またしばらく歩いていると、別の敵に遭遇した。ここでも早水は

「逃げましょう」

と提案すると、佐藤と共に、敵に背中を見せて元来た方向に全速力で逃亡していった。


「敵が沢山いますね」


 早水は無感情にそう呟いたが、その声を聞く相手がいなくなっていることに気づいたのは大分後のことだった。


 その時、彼女の大分後方では一機の機体がまさに敵の歯牙にかけられようとしていた。佐藤の機体。彼女は何もないところで奇跡的なほどに起用に転げてみせ、敵機の攻撃範囲に入り込んでしまっていた。


 敵の得物は鉄槌。


 射程は短いが、懐に入り込んでぶん殴りさえしてしまえば、よっぽどのことがなければ一撃で行動不能になるほどの威力を誇る武器である。


 一方の佐藤はハンドガンと盾というスターギアでは珍しい組み合わせで対峙していた。不利は免れない。


 敵の機体が大きく揺れ、「一撃で決めてやる」とばかりに力を溜めた。佐藤は盾をしっかりと構え真っ向勝負を挑むような体勢を取る。一撃を耐えた後に、間隙を縫って優位な間合いを取ろうという狙いだろうか。


 敵のカメラがギラリと光ったように見えた。


 その刹那、ガツンという不自然な音がフィールドに響く。槌はまだ動いていない。


 佐藤はその次の瞬間、盾を放りだして脱兎の如く逃げ出す。構えた盾をそのまま前に押しだし、敵の顔面にぶち当てたのだった。


 敵機は相手の予期しない行動に一瞬怯んだかと見えたが、すぐに鉄槌を持ち直し、ハンマー投げのようにして佐藤の後頭部に向けてその重厚な物を放った。

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