第4話

***

 熒は機体の足の一部を壁から覗かせて敵を誘うことにした。時間にしてせいぜい一、二秒覗かせた後、すっと足を壁の影に戻す。その直後、ちょうど足がおかれていた部分の床が弾け、コンマ数秒遅れて銃声が響いた。


「今なのです」


 壁から出て、狙撃銃のスコープを覗く。伏せてはいるものの敵の姿は丸見えだった。狙撃の精度といい、相手の熟練度はそれほど高くなさそうだ。敵機の目が緑色に光っているのが見える。恐らく操縦席からこちら側を凝視しているのだろう。相手の姿を想像して熒は頭を振る。


「考えない。考えない」


 息を止める。AIでの制御がほとんどされていないこの旧式の機体では、操縦者の体のごくわずかな動きですら動作に影響を及ぼしてしまう。


「この感覚、久々なのです。いや……考えたらダメなのです。思考も止めないと」


 小さく照準を揺らしていた微振動がX軸26、Y軸7.5の点でピタリと止まった。


 カツッ。トリガーを真っ直ぐに引く。


 ターン……。


 敵の頭が大きく仰け反った。


 相手の目から光が消える。


 機能、停止。


 それを確認して、熒は大きく息を吐いて、壁に隠れた。


「一人、撃破。損傷ゼロなのです」


 マイクの先の味方に伝える。


「ええぞ、ええと、ええやん。よくやったやん」


 少したどたどしい磐座の声が聞こえた。


***

早水「メチャクチャですよ。なんで関西弁にしたんですか」


新谷「あー、これダメだな。設定変えても良い?」


藍田「始まった後に変えるのはちょっと厳しいですね」


秌山「うん、ダメ。設定は守らないと! 遵守しないといけないのです! 設定は全てなのです!」


新谷「えー、いいじゃん。まだほとんど始まってないぜ?」


秌山「後でみんなが設定を変えたらメタメタになる。これは絶対にみんなが守るべき。藍田さんの善導ぜんどうに従うんだ」


藍田「……? 何か知らないけど、どうもありがとう」


新谷「じゃあ、関西弁使うんだけど、内心関東の言葉を使いたがってて関東の言葉を使おうとする人間という感じならいい?」


秌山「どんな心情なのです……? でも、それも設定の変更だから」


藍田「うーん……それはまあ内心のことで、設定が変わってるわけではないからいいですよ」


早水「それより、これなんて読むんですか? イワザ?」


新谷「イワクラ。磐に座るってかいて磐座いわくらな。名前はとおる。代々巫女さんの家系なのな」


狩野「あれでしょ? 磐座って何かどっかの神社に行ったときに覚えた言葉だよね」


新谷「お前、起きてたのか。そうそうそれな。さすが」


狩野「それにしても秌山は随分ルールに厳密だよね。何でかな……?」


新谷「何かあるな。藍田さんはしらないだろうけど、アキコが一番信用ならん奴だからな、覚えておいた方が良いよ」


早水「まあ、雑談もそこそこに進めてください。早くしないと飛行機が出る時間になってしまいますから」


***

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