第2話

 元町租界の片隅、かつて「みなとみらい」と呼ばれていた区域に直径百メートルほどの球形状の建物が存在している。


 「元町スターギアスタジアム」。建物の円周に沿って大きくそういう文言がかたどられていた。その周りには広告看板だろうか、青色のユニフォームを纏った男女やいささかずんぐりとした人型ロボットの写真がスタジアムを彩っていた。


 どんな未来の世の中であっても、人間が生活する以上、エンターテインメントは当然に存在している。


 「スターギア」と呼ばれるスポーツは老若男女を問わず現代で人気となっているスポーツだった。一人が一体ずつ「ギア」と呼ばれるロボットに乗り込み、相手のギアを撃破する。シンプルに言えば、スターギアはそういうスポーツだった。


 今、このスタジアムの中では、八人の男女がスターギアに興じている。行われているのは四人ずつチームを組んで相手のチームのギアの殲滅せんめつを図る「殲滅戦」と呼ばれる戦いだった。


 一方のチームは現代風のスマートな流線型の機体を操り、機動力を生かした戦い方をしている。それに引き換え、もう一方はずんぐりむっくりとした機体を動かし、相手の反応を伺いながら戦っている。全長は2メートルと50センチ程度。

 この野暮ったいと形容しても過言ではない時代後れの機体を操っているのこそ、彼女らだった。


***


藍田「ということでここから入ってください」


新谷「オーケーなるほどな。私からでいいか?」


藍田「いえ、四面ダイスで決めます。一が出たら新谷さん、二が出たら早水さん、三が秌山さん」


狩野「四が出たらボクだね」


藍田「うん、では行きます」


……


秌山「三!」


藍田「じゃあ秌山さんお願いします。えーと名前なんでしたっけ」


秌山「のこもけー。野菰のこもけい。機体の色はピンクだね」


藍田「はい、わかりました、それでは……」


***

 野菰熒はスタジアムの中央左側で敵と対峙していた。相手は長い直線を挟んで反対側にやや高所から見下ろす形で臥せている。熒は相手の死角になるように壁を背にしている。時折、壁の向こうを覗き込むようにして相手の姿を捉えようとするが、その瞬間、それを咎めるように銃弾が彼女の頭を狙ってくるので、なかなか相手の位置を特定できずにいた。彼女の機体武器は俗に「イズマッシュ」と呼ばれるギア用の狙撃銃だった。


 彼女は幼さの残る声で、一人こう呟いた。

「ここは絶対に守り切るのです!」

***

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