休息
家にたどり着いたガズハが疲労困憊しているのははた目にも明らかだった。
「留守中変わりはなかったか?」
「はい。父上。ですので、今宵はゆっくりとお休みくださいませ」
一晩ぐっすりと寝ると気力は十分に回復し、ガズハは空腹を感じて目を覚ました。既に日は昇っており、階下より食事の匂いが漂ってきた。階下に降りると食事の支度ができている。いつもに増して豪華な内容だ。
「父上。良いお目覚めでいらっしゃいますか?」
「ふわあ。良く寝たよ。で、このごちそうはどうした?」
「父上がお疲れのようでしたし、昨夜は何も召し上がらなかったので少し多めに用意させましたが、何かご不満でも?」
「ありがたい話だし、不満なんてないが、これだけの準備大変だっただろう?」
「アンナとキャシーが手伝いに来てくれました」
ちょうどその折に、そろいのチョーカーを付けた2人の人間が厨房から出てきて料理を運んでくる。ガズハに気づくと頭を下げ挨拶をした。
「朝から手間をかけるな」
「陛下。もったいないお言葉でございます」
「ああ、そーいうのなしなし。二人とも元気そうだな」
「はい。陛下のお陰でございます」
「あー。うん。なんだ。随分とうまそうだな」
「お口に合うとよろしいのですが」
一緒に食べていけ、と言うのを固辞して2人が去り、いつもの4人が食卓に顔をそろえる。
ガズハがちらりとドゥボローに視線を走らせると微かに頷いて見せた。クリア。食事に不審な点は無いということだ。いつもより豪勢な食事を楽しみながら、ガズハはずっと前のドゥボローとの会話を思い出していた。
「毒見だあ?ずいぶんとおおげさなんじゃねえの?」
「お言葉ながら陛下。用心にこしたことはございません」
「この村にそんな奴がいると考えるだけでちょっとゲンナリするぞ」
「いえ。陛下。不心得者がいると疑っているわけではございません。ただ、誰にも弱みはございます。その者を苦しめぬためにも」
「まあ、脅されて毒を盛るなんてのもありそうだなあ。だが、自慢じゃないけどそんじょそこらの毒じゃ俺には効かないよ」
「はい。ただ、同じものはシャーナ様も召し上がられますですね」
ドゥボローが言いにくそうにしながらも毅然として言う。
「いや、大したもんだね。我が緑鱗の盾よ。お前は我が身だけでなく、我が心の盾にもなろうというのか」
「差し出がましいながら、陛下の御為に」
シャーナの声が夢想を破る。
「父上。いかがなされました?あまり食が進まぬようですが?」
「すまん。ちょっと考え事をね。これだけのご馳走を前にしてもったいないことをした」
「それで、ガズハ様。此度の件いかがなされますか?」
「とりあえず様子見だ。あまり、派手に動いてどちらも刺激したくない。家の周りにコーモリが群れるようになっても煩わしいし、勇者も遠慮したいね。あ、その肉取って」
「父上。くどいと叱責されるやも……」
「うひゃあ、ほの肉ふまいな。ただなあ。まあ、この村に縁者が居て身を寄せたいとか、呼び寄せたいとゆー声が出てもそれは止められんよなあ。村の外郭を拡張なんかしちゃってもそれはたまたま偶然ってことなだけで」
「ガズハ様。では早速本日より取り掛かります」
「うん。それとシャーナ。エラン王国に忍ばせた者に勇者ってどんな奴かきいてみて。身長・体重・得意技、それからスリーサイズも。無理のない範囲でな」
「かしこまりました。7日以内にはご報告を」
村の周囲を見て回りながら、ロダンがガズハに声をかける。
「村の拡張は、ご覧の通り、このワノルード湖に沿って北側に拡張するしかありません」
「東と南が崖、西が湖じゃ、そうなるだろな」
「いかほど広げますか?」
「任せる」
「あまり熱心ではございませぬな」
「いや。俺よか、移住希望者の目算立ってるお前の方が分かるだろって話。先日、密かに根回ししてきたんだろ」
「見抜かれておりましたか」
「まー、だいたいはな。それより、俺をこんなところに引っ張り出したのは2人だけで話したいことが他にあるんじゃないのか?それとも久々にもふもふ大会?」
「ご慧眼恐れ入ります。もしや、魔王の座を譲られたこと後悔されているのではありませんか?」
「なぜ、そう思う?」
「お判りでしょう。ガズハ様が魔王を続けていれば勇者が覚醒することはなかったのですから」
「そりゃ分からんぞ。人間どもが勝手に自滅して同じことになったかもしらん。貪欲王ズパーゼなんぞが王についてりゃな」
「ですが、その場合でも魔族の勢力をさりげなく調整されたでしょう」
「調整が効き過ぎて、反発を食らう可能性もあっただろうさ。実際、ビジャが魔王になったのもその辺の事情がからんでるんだから。まあ、過ぎた話だ。今更どうしようもない」
「ビジャはやり過ぎましたな」
「なんだ。お前が愚痴を言いたいだけだったのか?」
「当然でしょう。ガズハ様が苦心して保っていた世界のバランスを崩したのですから」
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