第11話 プロットで行き詰まった話

 歌舞伎の世界では、『守・破・離』という言葉がある。


 まずは型を身に着ける。

 型を身に着ければ、型を破ることが出来る。

 そうして初めて、自由なオリジナリティへと発展させる事ができる(という私の解釈)。

 型がないのに自由にやると、それはただのなんて指摘も、あったり、無かったり。


 ご無沙汰しております。『退かずのアリス』と並行して、最近は新しい長編を書いてみようと、試行錯誤あるいは四苦八苦している政宗あきらです。


 具体的には、今も公開している『もし高校野球のマネージャー(魔法少女)がウィル・ジェイムズの野球抄を読んだら』を、ちゃんとした長編にしてみようと試みています。


 ちゃんとした、というのを補足すると……この小説は最初、一話完結の短編として(夜中のテンションで勢いままに)書いたものでした。

 けれど書いている内に主人公のアリカ、ぬいチクと言ったキャラクターも浮かび上がり、そもそもの題材もいつか書きたいものだったので、腰を据えて長編として書き上げたいなと。

 そんな中で少し思い出す事があり、そしてこれは忘れたくないなとも思ったので、まさにリアルタイム備忘録として記録しておこう、と思い立ちました。


 ほんで。


 これまでろくに長編を(というか小説自体がそうなのだけれど)書いた経験もない私は、執筆というものに対して、色々と基礎的な部分から経験も知識も不足している、と感じる昨今。

 なので、次の長編はある程度の『型』にはまってみようと意気込んでみる。


 嵌るべき型を探すべく、様々な小説や映画、創作論などに目を通してみて、ええやん、これやったら出来るかもやん、と感じた書籍が幾つかあった。

 特にプロットの作り方について感じる所があり、へえ~そっかぁ、と思った私は早速、書籍の内容に基づいてプロット書き書き。


 そして行き詰った。


 プロット作りを進めるにつれて、違和感がどんどん膨らんで来る。ストーリーとしては基本を抑えてはいるはず。けれど、どうにも上手く仕上がる気がしない。

 その原因を考えていく内に、一番大きいのは『キャラクターとプロットの折り合いがつかない』という所だと気づく。


 どう考えても、アリカというキャラクターがストーリーに沿ってくれない。沿ってくれると思えない。こちらが用意した障害や問題など、小さな水たまりの様に飛び越えていく未来しか見えない。

 じゃあキャラクターをストーリーに沿わせれば良いじゃない、とは思ってみたものの、そうして出来上がるのは表面的な、中身のない、もはや君は誰やねん状態のアリカ。作者の都合に合わせて動いてくれる、とても面白味のない存在。


 さて困った。どうしたものか。

 一体何を基準にして、この擦り合わせを行えば良いのか……


 ウンウンと唸っている内に、小説を書き始めるよりもっと前の記憶が、ふと、思い出された。

 大分と前のお話。お芝居に携わった頃の経験が。



 当時、劇団には脚本を書ける人がおらず、プロが書いた市販の脚本、若しくはWebサイトで公開された脚本を用いて上演していた。


 お芝居をやろうとなると、まずは皆で脚本を持ち寄って一つを選びだす。その後は役者陣と制作陣のメンバーを決めて、稽古期間を経て劇場で公開するというのがザックリとした流れ。


 ただ、ある時の芝居では、脚本を持ち寄る前にミーティングを重ねて実施した。脚本……つまりストーリーやキャラクターを決める前に、皆で深く考えるべき事があるのではないか、と誰かが発案した為だ。


 その話合いは一カ月ほども掛かっただろうか。メンバーで『どんな芝居をしたいのか』を徹底的に掘り下げた。

 アクションシーンをやりたい、という意見。

 コメディをやってみたい、という意見。

 或いは、この脚本家の作品にチャレンジしたい、という意見。


 他にも様々な意見が出たけれど、ある時、ふと気付く人がいた。

 そんな表面的な方針ではなく、もっともっと奥深く……何の為に芝居をしたいのか、そこがになるんじゃないか?


 そうして幾度もの議論を経て現れたのは、『観客も自分たちも、心の底から笑って、泣いて、楽しめる作品』という想い。自分たちが心の底から表現したいのは、そんな作品ではないか、と。


 そこからは早かった。自分たちが表現したいものに沿脚本を探して選び出す。更に、その脚本を核に沿ためにシーンやセリフを加筆修正していった。


 音響も照明も舞台も衣装も、全ては核を表現するために決めていく。基準がハッキリしているから、迷う事はあっても有耶無耶に終わる事はなかった。


 今、プロットで行き詰っているのは、その核が曖昧模糊としているからなのか。


 自分は何を描きたくて、この物語を書きたいのか。ストーリーの前に、キャラクターの前に、もっと奥深くにある創作の源泉。これが自覚できないと、幾ら基本を抑えた作品を書けたとしても、満足できないのかも知れない。


 まだまだ時間は掛かるかも知れないけれど、焦らず、じっくり。



 そんな備忘録でした。まる。


 と言う訳で、上述の『もしウィル』は諸々が纏まった頃、非公開にしようと考えております。いつになるやらまだ見当もつきませんが……ぜひ、楽しみにして頂ければ幸いです。

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