第12話 10月上旬の1日
「10月になったら秋だ」なんて嘘はどこかのほら吹きが吹いたお話だ。夜に煩く鳴きまくる秋の
彼は休みの日も家で活動する時間が徐々に増えて、休みの日も私と一緒にせっせと
「いーち、にーい、さーん」
「え、ひどい。1秒はもっと早い」
「ワントゥワン」
「え、どうして1に戻ったの」
腕を震わせながらも私に文句を言う彼のために、キッチリ秒を間違えないように航空用語的な数え方をして今日の分の
元から体力がかなり
「ねえ」
「どうかしたの?」
彼はぎゅっとその小さな手を握りしめて、私に向き直る。その小さな手を離せなくなって今に至るのを思い出して、抱き締めたくなったのを我慢する。なにか真面目なことを言おうとしているのに、遮るのは良くない。
玄関で仕事を辞めたいと私に告げて号泣したあの日とは全く違う、真っ直ぐな目だ。
「俺はやっぱり仕事を辞められない」
「そうだろうね」
「え?想定通りなの?」
「うん、君が辞められないの知ってた」
あんなに傷付いても
私以外の同僚や同期も知っていた。だから、彼が
彼が持つ私には無い
助けてあげたい。支えてあげたい。何とかしてあげよう。そう思わせる
万能で頼れる指揮官の方になるように、
「だって、君は防人であることに誇りを持っているでしょう?」
私には
「うん、君はなんでもお見通しだね」
「大丈夫、やりたいようにしたら良いよ」
私は格闘技の試合では全国区だったから
でも、彼の
私はそんな彼が好きだし、一緒に行こうと思う。
「来週からちょっと遠くに派遣に行ってくる」
「うん、どこに行くの?」
「少し僻地に行くんだ」
もちろん班長から聞いているからどこに行くのか、何日行くのか。むしろ、班長からその期間一人にさせて大丈夫なのかと聞かれて調整をしたから、私は詳細を知っている。
でも、彼は私が色々と関与したことをとても気にしている。だから、知っていても敢えて聞く。
「
「うん、お土産買ってくるよ」
「ありがとう」
後日渡されたお土産は
秋刀魚のときに私が「これ美味しいらしいよ!」と
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