第11話 9月下旬の1日

私も新しい仕事に慣れてきて、一寸ちょっとは社会常識と呼ばれる基本が身につき始めたころ。


「お疲れ様です。こちら人事」と電話を取っていた前職の名残で、壊滅的だった電話応対を「お電話ありがとうございます。〇〇でございます。お世話になっております」と出られるようになったのは多大なる成長だ。

はじまりがあんまりにあんまりだったので、何ができるようになっても上司は褒めてくれる。


私は煽てられれば木に登るどころか、蛍光灯だって替えちゃうし、ゴミも捨てるし、戸棚を持ち上げるぐらいは雑作ない。

しっかり事務所オフィスの移転に貢献して、仲も深まった。


一寸ちょっと悪いところがあるものの、基本はおバカでチョロいのだ。特に前職の括りから出てしまえば、そのおバカさが際立つ。

誰だ私のことを頭が良い、優秀な頭脳だとか言ったやつは。一寸ちょっと悪知恵が働く高学歴大学卒なだけで、頭が良いわけがない。



「え?この裁断機シュレッダー紙止ホチキス付けたまま入れて良いのですか?」

「え?今どき、外すやつある?」

「え?そうなんですか?」



そんな感じで、色々と乖離ズレはあるがまあまあ順調だ。


毎日、私が日報とBMWを作るため、行動が把握しやすいらしい。BMWとは「バカでもマニュアルでわかる」の略だ。


以前に親愛なる先輩パイセンにご指導ご鞭撻いただいた代物だ。

世間との乖離ズレにかなり苦しんだが、どうやら前職で叩き込まれた習慣は全てが全て無駄というわけではないらしい。


それに、良い会社に入れたようで「爪が割れるような靴を履く必要なんかないよ、ヒールなくても良いぐらい」であったり、上司に報連相ができるだけでやけに褒めてもらえたり。

なんとも快適に過ごしている。



「え!?トイレットペーパー使い放題なんですか……!?」

「むしろ、トイレットペーパー切り詰めて使う必要ある?」



私があまりにあまりだからと、一寸ちょっとばかり挙動不審だとすぐ捕まえてもらえる。今回、私を捕まった挙動不審の理由は、お花摘トイレに行くか行かないかを悩んでいたため。


上司は腹を抱えて笑い転げていたが、前は一日にトイレに行ける回数とトイレットペーパーの長さが決まっていたので、トイレに行くタイミングはよくよく考えなければ行けなかった。

だから、今トイレに今行ってしまったら……と葛藤していたのだ。


なお、誰もトイレの回数を教えてくれないし、マニュアルにもないから上司がお花摘みに立つ回数を数えていたなんて言えない。

露見バレないうちに、半笑いで上司のお花摘み回数と時間を記入していたメモをしれっと裁断シュレッダーした。

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