レイジ3 儀式と生贄
「キミが何を考えているかは知りませんが、こんなに単純な事件はありませんよ」
「ほう、優秀なカスティ君にはもう事件の真相がわかっているのかい」
カスティは挑発してきたマークを睨みつつも、無視して口を開いた。
「まず、第一にモンテロが出所後、どこかの組織と合流したのは間違いないでしょう。元よりヤクザな身の上です。真っ当な道に進むとも思えない。それで、モンテロは組織と合流したが、ドラブルが生じた。モンテロが裏切ったのか、組織がモンテロのことを不要と判断したのかは知りませんが、とにかく組織はモンテロを始末することにした」
「なるほど。組織ぐるみでモンテロを殺したということか」とクレマン。
「その通りです。だが、組織はモンテロをただ始末したのではなかった。連中はモンテロを儀式の生贄にしたのです!」
鼻息を荒げてカスティは断言した。
「え!?」
レイジ以外の思想犯罪班の面々は驚きの声を上げた。
「これでなぜ現場に奇妙な図形が描かれていたのか、遺体の傷口が特殊な凶器でつけられたのかがわかります。まず、図形は言わずもがな、儀式に必要だったからです。凶器は――マグネットは動物の角か牙とか言っていましたが、これもまた儀式に必要な祭器だったのです」
「祭器、ですか」
「ええ。かつては動物の角や牙を象徴として儀式に用いる民族もいたと聞いたことがあります。モンテロもまた、組織の信仰する“何か”に生贄として差し出されたのでしょう。大筋はこれで間違いないはずです」
「……それはどうだろうか」
ぼそりとレイジがつぶやくと、一気に視線が集まった。
なかでもカスティは眉間に青筋を立ててレイジに掴みかからんばかりだった。
「何か僕の説に不満でも!?」
「いや、不満というか疑問点が何個か――まず、儀式の生贄にされそうなのに、モンテロはなぜ逃げたり抵抗したりしなかったのか」
「それは、モンテロには儀式をすることだけを伝えていたからでしょう。いざ、殺す準備が整ったところで急に襲いかかったのです」
「なるほど。組織とうまくいっていなかったモンテロが不意打ちを許すかどうかはわからんが、可能性はある――あと一点、モンテロが急に襲われたのなら、なぜ儀式に使われたと皿と杯がひっくり返っているのか」
「もみ合いがあったのなら、現場が乱れているのは自然なことでは?」
ミカが疑問を差し込んでくる。
「ハワードはモンテロには抵抗した形跡がなかったと言っている。ということは、モンテロは突然襲われ、抵抗するまもなく殺されたのだろう。だが、それならどうして現場は乱れているのだろうか」
「それは……儀式が終わったあとに、犯人がトリップしてやったのでしょう」
カスティが反論する。
「それはありうる。だが、そんな犯人が凶器を持ち帰り、巡回しているTMの監視を避けて現場から逃げおおせられるだろうか」
「たしかに、発狂した人間が頭を使って逃げたとは考えにくいね」マークが頷く。
「発狂した人間による犯行だと偽装した、というのではどうでしょう?」
「動機をごまかすため、という可能性はあるだろうが、こんな舞台装置を作ってモンテロを呼び出すなんて手間をかけてまでやるかは怪しいところだな。誤魔化す方法なんて、もっと簡単な方法がいくらでもあるだろうし」
「うーん、難しいですね」
「……ふん! あとはオカルト班の皆さんで勝手に議論していなさい。僕は捜査に戻らせていただきます!」
カスティは四人に背を向け、肩を怒らせながら去っていった。
「……怒らせちゃいましたね」
「まあいいさ。これで気を遣う必要もなくなったしね」
「マークは一ミリでも気を遣っていたのか?」
「失敬だな! この気遣いの男と呼ばれた僕に……」
「あーいいかね諸君」
クレマンの呼びかけに三人は押し黙る。
「まず、当面の捜査の方針だが……どうしようかね?」
三人はがっくりと肩を落とした。
「とにかく、カスティ君も言っていたようにモンテロの出所後の足取りと関係した組織の調査は必要だろう。あとは不審人物の聞き込みもしたいが、計画未定区域内の事件だからな。目撃者もいないだろうし……」
「それなら、俺にちょっと心当たりがあるから、そっちを当たらせてもらいたい」
「……ふむ、いいだろう。なら、マークはモンテロについての調査を、ミカはレイジについていってサポートを頼む」
「オーケー。レイジ、仕事サボってミカちゃんとデートするなよ」
「お前じゃあるまいし、大丈夫だ」
「ま、コソコソやるのはいつものことだし、僕は真っ当に働かせてもらうよ」
レイジは考える。
カスティに疑問点を示したときに、指摘しなかったある一つのこと。
(あの木箱はなんだったのか)
カスティの説を信じるなら、生贄にするモンテロを入れるための棺と考えることはできる。
(だが、遺体は棺に入れられていなかった)
モンテロの遺体は木箱の外にあった。もし生贄を捧げる容器として木箱が置かれたのならば、モンテロは中に入れられていなければおかしい。
あるいは、一度は入れられたが、そのあとで外に出されたということもありえるが、それならば血痕が残っているはずだ。
当初は生贄にする予定だったが、モンテロを殺害してから予定が変わり、儀式を中断したという可能性もある。殺人後のパニックで儀式を続けられなくなり、皿と杯をひっくり返して逃亡した……。
(あるいは……モンテロ以外の生贄が入れられていたか)
だとすれば、儀式を行っていたのはモンテロなのか。
儀式に失敗し、生贄にしようとした者に逆襲されてモンテロは死んだのか。
あるいは儀式は成功したのか。
得体の知れない薄気味悪さが、レイジの思考に絡み付いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます